月別記事

ブログ 今日のいもたつ

いもたつLife

【spac演劇】ハムレット 演出:宮城總

宮城さんは「ハムレットは解答ではなく疑問を表現している芝居」と言います。
ハムレットは、「いったい自分は何者なんだろう」と自らに問い、現王クローディアスへの復讐を果たすか悩み、それを通じ、“どう生きるか”にいつも真剣だからです。

その姿はあまりにも誰にも通じる、生きていくことの根底の疑問で、ハムレットがもがき苦しむ様を、時に自分に重ね、時に自分にはそこまで激しく突き詰めないと呟きます。

このspac版ハムレットは、父・母との自分の関係、愛する者・友人との関係、またハムレットの場合は国を憂うのですが、自分に置き換えたら仕事との関係を、舞台で武石守正ハムレットが懸命に生を演じることで、私としては、日常の中での身近な生活シーンで「いったい自分は何をやっているのか」から始まり、正しい正しくないは置いておいて、“生きたい生き方をしているか”という疑問を湧き上がらせます。

そして最後は、ハムレットが自国をかつての敵国の王フォーティーンプラスに任せるホレーシオへの遺言を、終戦でアメリカのマッカーサーに委ねたことと重ねます。
このラストは、「自分は何者であるか」は、出生から育った環境に強烈に影響されていることを、それが私を強固にしていることを想わせます。

それにしても久しぶりの本格spac演劇は、演出から役者の身体能力から、衣装・セットに至るまで、今回も非常に優れていることを知らしめていました。

【いもたつLife】

日時:2021年02月16日 11:57

【spac演劇】病は気から 潤色・演出 ノゾエ征爾

調べてみると、過去に2012年と、2017年に二回観劇しています。しかし、予想以上に演出が異なっていました。
もちろん“新型コロナ”を盛り込んでいるからです。
自分は様々な病に冒されていると錯覚しているアルガン。たくさんの薬と浣腸のおかげで生きながらえていると。しかし周りは皆、アルガンは本当は健康だと思っています。それを知らないのは、自覚がないのは本人だけです。
そこから繰り広げられる、アルガン家族とそれに関わる人たちの群像喜劇という骨子はこの演劇の胆で、舞台設定も変わりませんが、味付けが“新型コロナ禍”を意識されられます。
舞台上に観客席が置かれているという設定で、それが今までもこの演劇のキーでした。観客は演劇を観ていながら“演者に観られている”喜劇は観客も演じているのですよ。と言わんばかりで、今回もそれを上手く活用しています。その中身が今まで以上に現状の世の中を辛辣に皮肉っているのが、今回の“病は気から”でした。
これまでも人類が感染症との闘いの歴史を繰りかえしてきたことは、今では周知されています。「withコロナ」の時代が来ているというのも衆知されてきています。
それを本当に解っていますか?と問いながら、嘲笑われているというのを感じる演出なのです。
かなり語弊があることを承知で言うと、やたら恐れること、また、マスク・消毒・検温をすること、それらは嗜みとして当然だし、自分が感染しない対策であり、もし自分が感染者だったら、他人に感染させない思いやりでもあります。
けれど敢えていうと、それがやみくもに行われていませんかともとれる内容です。そこには、新型コロナを吹き飛ばせのメッセージも込められていますが、風刺にもなっているとも感じました。
前々回の「ミツバチ共和国」は10カ月ぶりのSPAC演劇再開第一弾で、これからのSPAC演劇の方向性を示していました。前回の「妖怪の国の与太郎」は新型コロナを吹き飛ばせ!で、今回は、私たちが新型コロナとどう向き合うかを、一つの付き合い方を提示しているようにも感じました。

【いもたつLife】

日時:2021年02月06日 17:42

【spac演劇】妖怪の国の与太郎 ジャン・ランベール=ヴィルド、ロレンゾ・マラゲラ 演出

与太郎は死んで冥界で目覚めます。与太郎は名前以外は死んだことも忘れていました。そこへ現れてのが死神エルメス、彼は黄泉の国の道案内人で、与太郎に自分の魂を閻魔大王に届けろと、そこで成仏できるかが決まると告げます。
ところが与太郎は自分の魂を失くしています。
それを探す旅が始まります。与太郎は妖怪の国に迷い込みます。

映画で言えばロードムービーです。いろいろな妖怪の国に与太郎が彷徨う演劇で、不思議の国のアリスのようです。

演劇自体は演出家が俳優に自由に造らせたということで、妖怪の国々を喧々諤々で作りだしたようです。だからとても日本らしい妖怪が登場し、演歌も流れます。舞台も夏まつりも様相です。

とにかく思いっきり楽しい劇をというメッセージが伝わってきます。
そして、定期的な消毒、マスクの奨励と、新型コロナも笑いに取り込んでいます。
コロナを吹き飛ばせでした。

【いもたつLife】

日時:2020年12月30日 10:32

絵本画家・赤羽末吉 展【静岡市美術館】

一人の芸術家の作品を年代で、また、生涯の変遷の観点から、ボリュームたっぷりで展示している静岡市美術館の企画展は今回もとても良かったです。

赤羽末吉の作品から、絵本と映画造りは似ていると痛感しました。
どの画を見ても、映像作家のように、空間を上手く使い、人とそれに準ずる対象の大小と、それらの配置で、語っているという印象です。
小津安二郎や溝口健二の映画を連想してしまいました。

そして赤羽末吉は絵本に無限の可能性があることを確信していた人だったのでしょう。

【いもたつLife】

日時:2020年12月05日 11:30

【spac演劇】みつばち共和国 セリーヌ・シェフェール演出

今年は5月の連休中の演劇祭も中止になり、なんと1月以来のspacとなりました。
厳重な体制でした。
マスク着用、2度の消毒、人を介さない体温測定、もちろん他の人とは距離をおく、名簿の記載、もぎりも自分、パンフレットも個々人でとる、観客数も少ないという中でした。

この「みつばち共和国」もそれを反映させた演出です。
役者は3人と少数、女性二人はマスク着用、男性はミツバチの飼育の格好ですから、顔の網がプラスティックです。台詞も録音が流れます。
そして内容は、社会とのつながりを謳います。

このコロナ禍で開催するspacの劇の第一弾であり、方向性を示したものでした。

【いもたつLife】

日時:2020年11月15日 18:06

ショパン200年の肖像展

展示されているのは、数々のショパンの肖像画や彫刻、同時代の絵画やショパンに纏わる資料です。また現代の芸術家たちの作品、もちろんショパンに触発されて制作されたものです。
直筆の楽譜や手紙も展示されていました。
改めてショパンが世の中に何を残したかの旅を楽しんだ気分です。そしてショパンの人となりも体感できました。

音声ガイドを聞きながらの鑑賞だったのですが、ガイドの最後はサプライズでした。
日本で初めてショパンを演奏した柳田柳吉氏の演奏が入っていました。

【いもたつLife】

日時:2020年09月27日 11:34

【spac演劇】少女と悪魔と風車小屋 宮城總:演出

絵本をめくるような舞台とされていて、まさにそれを感じます。
舞台は白が基調で、場面が変わるごとに闇になります。そしてまた白が浮き出てきます。
役者の衣装も白が基調、折り紙でできた舞台の小物も白、それらに照明の暖色が加わりますが、時に真っ赤や真っ青になり、それはもちろん大きな変化の時です。
そんな中、悪魔は黒です。そしてもう一つ影が黒です。ただし少女の影は黒ではありません。
影はシーンにより強調されます。影は本人ではないけれど、その本人の本当の気持ちを語っているようです。
また、悪魔は不気味に踊り、不気味に嘯くように時に歌い、また決定の台詞を投げます。

物語は、少女の父が悪魔に騙され大金持ちになる代わりに少女を悪魔に売ってしまいます。少女はそれを逃れるのですが、悪魔の命令で父に両手を切られます。少女は家を出て彷徨います。
天使に助けられ、王様に合い、見初められます。
王様は遠くへ戦争にいきます。その間にお妃になった少女は王子を産みます。
そのことを手紙に書くと、悪魔が手紙を書き替えます。王様には醜い子が生まれたと、お妃の面倒をみる庭師には、王子を殺せと。
庭師は、お妃と王子を逃がします。
ラストは戦争から戻った王様がお妃を迎えにいきます。すると、お妃には手が生えていました。王様は奇跡に驚きます。

たくさんのことが示唆されています。
父は騙されたとはいえ、娘を金と引き換えにします。
少女は両手がないにもかかわらず、何とか生き抜きますし、王様に合います。幸せになると、また悪魔が現れます。
王様は戦争をしています。
最後は奇跡が起こります。

人が、欲や損得で生きることを否定していませんが、人らしくの難しさを感じずにはいられません。
腕のない少女が生きられていくということも、世の中捨てたものではないとも取れます。
そして、悪魔が再三出てくるのも、この世の中らしさです。
最後の奇跡はどうとるのでしょうか?
少女は「春になると森中で新しい葉が生えます。そのことに驚いていましたか」と言います。それを受けて王様は「これからはすべての奇跡に驚き続けよう」と言います。

私事ですが、今までそれなりに生きてきたこと、例えばこの演劇を観ることができたこと、その時間を楽しめたことが、それらを奇跡とまでは思いませんが、当たり前ではないように感じます。
当然自分の意志なのですが、偶々、この地で生活している、職もある、等々のことの積み重ねの上で適っているのは間違いありません。
最後の王様の言葉はそう受け止めます。
とても当たり前のことを教えてくれる演劇です。

【いもたつLife】

日時:2020年02月05日 13:33

【spac演劇】RITA&RICO(リタとリコ)~セチュアンの善人より~ 演出:渡辺敬彦

【spac演劇】RITA&RICO(リタとリコ)~セチュアンの善人より~ 演出:渡辺敬彦
「善き人でありたい」大概の人はそんな人生を歩もうと、漠然としているかもしれないですが、歩もうとしています。
では「善き人とは?」それを劇にした作品です。

リタは善き人です。
困った人を助けずにはいられません。たとえその行為が自分を苦しめることになるとしても。そして、その行為が過保護であっても。
とても純粋な人です。けれどもその心の裏側には「善き人に見られたい」という利己もあります。

リコは傍目から見れば自分本位ですし、その自覚もあります。利己を追うから金儲けもできます。でも遠回しに見れば社会貢献をしていないとまでは言えません。利他を全くしていないわけではありません。

リタはその世界でどうしようもなくなるとリコに頼ります。

この演劇は、私たちがどう生きようとを、漠然と考えている頭の中を舞台であからさまにします。
善き人になるとはリタであればよいわけではなく、でもリコでは不十分であると、その狭間で生きてるのが日常でしょう。

私のことで申し訳ないのですが、私は利己な人であるという認識があります。かなり強く。でもそれが私の生きる、ほんのちっぽけな世界の中では利他として機能している部分が少なからずあるだろうという感覚があります。

利他とは、その及ぼす範囲でかなり成就する条件が変わるのではないでしょうか。
だからこの演劇はとても難しい題を題材にしています。けれど、リタ個人に落とし込むと、すんなりとこちらに入ります。
結局、できることは自分の守備範囲であることを伝えています。

リタが生きているこの街の外野の人たちはみんな利己でリタは悩みます。けれど、その外野の人もリタは利己であると感じている人もいるわけで、それが世の中です。
生きることは自己満足とは離れられず、でも少し人のためになっていたら最高なのでしょう。

【いもたつLife】

日時:2019年12月24日 12:22

【spac演劇】ペール・ギュントたち~わくらばの夢~ ユディ・タジュディン:演出

演出家のユディ・タジュディンさんが15年以上前から構想していた骨子を、インドネシア、ベトナム、スリランカ、日本の、演出家やダンサー、振付家、作家、作曲家、俳優、15人余りが、その題材について、もんでもんで作り上げた作品で、これから世界で上演されていくにあたって、まだ、もんで進化させるというスタイルも取るそうです。

ユディ・タジュディンさんの骨子は、グローバルに世界が進んでいく中で、世界がつながっていくなかで、その弊害を感じ、新たな差別や紛争、対立、また自国の利益に邁進する風潮も進んでいくことを危惧していることです。

劇の筋は、ペール・ギュントそのものですが、かなり脚色されています。
観劇していて強く感じたのは、今の世の中を非常に警戒しているメッセージが込められていることです。
ペール・ギュントの一生をなぞらえて、彼の姿を国際社会の強国に重ね、また虐げられている者にも重ねて、生きにくさを謳いあげているように感じました。

それとは別に、アジア4国から集まった精鋭のダンスや身のこなしは、素晴らしく、超一流です。それを下敷きに、ここのパフォーマーが場面ごとに解釈を加えているところも、見ものです。

しかし、個人的には警鐘を強く受け止めました。

【いもたつLife】

日時:2019年11月20日 08:03

マイクロカプセル香害 柔軟剤・消臭剤による痛みと悲しみ 【著】古庄弘枝+被害者・発症者の声

私は40年近く前に、花粉症が発症しました。当時は当然ながら“花粉症”の言葉はなく、春になると何故こんなに苦しいのか、いてもたってもいられませんでした。

しかし、この本で知った、香害で健康をそがれてしまった人々の、発症して深刻な症状で苦しむ人々のご苦労のご苦労は想像すらできません。
なにせ、花粉症は、その存在がわからなくても、春が過ぎれば収まったけれど、汚染された空気で苦しむのは、社会にいる限り逃れられないということだからです。
身近な人が強い香りの化学製品を使っただけで、それどころか、宅配便に“移香”してしまっている“香害”でも症状が悪化してしまう現実は相当に深刻なものです。
(そしていつ私も発症してもおかしくないことも知り、この本で恐怖を覚えました)

そして現代は、強い香りの化学製品を使うのは当たり前の風潮と、使っている人自体は、まるで“香害”の自覚はなく、本人たちは“良い香り”に感じているから、事態は複雑です。

これまで世界中で起きてきた、科学文明が生んだ公害が、いち早く異常を察した少数の方の声から公になり、解消に向かったのと同じく、一日でも早く、その方向へ向かってほしいです。

また、巨大産業と経済の原理が、また問題の裏に潜み、解決もそれが妨げているという、いつもながらの構図があり、辟易してしまいますが、私がこの本を読んだ事実は、解決に向かっている一つの証であることも間違いないことでしょう。

【いもたつLife】

日時:2019年11月09日 09:22