いもたつLife
貴方なしでは 1939米 ジョン・クロムウェル
ひとめぼれで結婚した夫婦が夢見た結婚生活ができず、
経済的にも、嫁姑にも、そして子供まで悲劇に。
その状況の二人がどうなるのか。という映画です。
できそうでできない役の、ジェームズ・スチュワートは上手です。
相手役のキャロル・ロンバードもそれに応えています。
ストーリーは夢見る凡人を描きますから、
自分と重なります。みたくないけど、良くわかる。筋です。
子供の危機も結局自分たちの力では無力で、上司に泣きつき、
なんとか一命を取り留めました。(上司を動かしたのは、それだけの存在ですが)
作中随所に夫への叱咤激励が心に響きました。
男って、妻におだてられ、だまされで、やってしまうことって、
(私は)多いです。いつまでも子供なのは男かな。
ライオンも生活の主は雌達です。雄はここぞで役に立つか立たないか。
人の場合、生活の最低限を守ればなんとかついてきてくれるからありがたいです。
(少し古風かも)
この映画では夫が、自分が夫になったこと自体をあやまちだと宣言します。
それだけで、この夫が誠実なのがわかります。
そんな宣言をすることはナンセンスですが、その心があるかを知ることは重要です。
【いもたつLife】
名刀美女丸 1945日 溝口健二
時代は江戸末期です。
刀師の不備から父親が切られ、娘が仇討ちをするのですが、
その原因とそれを成就するためには、名刀が必要です。
それを打って生ませる、刀師の苦悩がメインです。
元禄忠臣蔵の原寸主義とはいかないものの、
刀を打つ職人業をはじめ髄著に溝口監督の心が感じられます。
1945年封切りを加味すると、もう一歩踏み込んで認識をしてゆこうと思います。
ストーリーはありきたりですが、
観ていて引き込まれる感覚は、溝口映画(だけではないですが)でいつも感じます。
この作品で刀師の師匠が「誰のために(刀)を打つのだ」の言葉に主人公は、
「(刀を渡す大恩ある人のため)です」と答えると、
「それでは末代に仕える(刀)はできない」と主人公を諫めます。
この映画は数々の不足の中で造られたでしょう。
でも、魂が入っています。
【いもたつLife】
ある歌い女(うたいめ)の思い出 1994チュニジア/仏 ムフィーダ・トゥラートリ
1950年代のチュニジア。
フランスから独立する頃を、主人公の回想でストーリーは進みます。
しかし、舞台は王宮内だけ、しかも視点は召使達です。
だから、独立の荒々しさは蚊帳の外で、その視点がそのまま観客の視点です。
閉ざされた王宮内で、変わる時代が来ているけど。
この映画を観る前に、チュニジアの知識を入れました。
ほとんど知らずに認識していた国です。
初等中等教育は、浅く広く教えてくれます。
テストの点数が取れればよし、ではなく、
そこから自分が何を深めてゆくかのきっかけ作りです。
そんな教育のシステムを今さらながら実感しました。
もしかしたら、私の世代が陥る落とし穴かもしれません。
話を戻します。
成長してゆく中で、経験もなく、知ることもなく過ごす悲劇を観ました。
悲惨な戦争とは違いますが、時代が生んだ出来事です。
人の歴史は、変わるのが常です、でも変われない環境におくことを選ぶ
選ばされることもあります。
王朝末期、ここでも弱いものが虐げられています。
この映画は、変革してゆくことは何もみせませんでした。
独立から落ち着いた時から、ただ独立前夜だけを写すのみです。
その流れの中で主人公も何をしてきたかは解りません。
ただ、題名が示すとおり「思い出」としました。
ここが人が持つ強さと希望です。
今主人公は悩みながらも、王宮にいた頃とは違う
自分で決めることができる人生にいます。
ここに素晴らしさと悲哀が同居していました。
【いもたつLife】
黄色いリボン 1949米 ジョン・フォード
退役が決まっている騎兵隊の大尉ジョン・ウェインが過ごした、
退役までの数日を追ってストーリーが展開されます。
最後の任務は、悪条件も重なり至難なものになりました。
満足できない結末です。それでも退役は不動です。
そういう条件で、退役真近と、直後のジョン・ウェインを映します。
次の世代に継いで行く男、惜しまれています。当然感無量ですが、
そんなことより今まで何をして、何かを残せたか?
それをこの映画のジョン・ウェインから察します。
もちろん今までの活躍を称えてくれています。
だけど、本当に彼の精神は残っているのか、それを危惧しているようです。
でも、それはちょっとしたエゴです。でもこれが人情です。
だから、退役を受け入れます。ひとつやり残したことを除いて。
ジョン・ウェインは老いと言うほど老いていませんが、
人生を考えてみるとこの映画での彼の表現は、私のこれからと重なることが多いです。
今からこれまでの営みで、老いた後を変えることはできませんが、
今から今までを卑下しない生き方はできます。
亡き妻の墓前で語りかける姿がありました。
私もそれができるように生きたいです。
そこには、夫婦に共通するいつわりがない言葉を発する条件が整っています。
そこで何を話しかけることができるか。
それが生きたひとつの証だと。あのシーンは心に告げてくれました。
【いもたつLife】
アパッチ砦 1948米 ジョン・フォード
表向きは騎兵隊対インディアンの話ですが、
内実は、騎兵隊内の上司(ヘンリーフォード)とその部下(ジョンウェイン)
とその部下たちや家族の話です。
騎兵隊という立場におけるジョンウェインの立ち居振る舞いが印象に残ります。
上司を上司としている姿は、武士道を感じさせます。
監督は、騎兵隊の在り方、在った姿を撮りたかったのでしょうか。
上司には、あってはならない行動が随所にみられます。
しかし、そこに悪代官のような感じはありません。
彼も彼なりに、国や市民や家族を大事にしています。
ジョンウェインの役のように、実力も人間性もある人物もいるでしょうけれど、
いつもその人が中心であることはありません。
実力者が力をだせないままを映画にしています。
しかし、実力者もそのことに腐りません、それで大局が悪くなってもです。
ちょっとすると、「何で、何で」の展開です。
感情がなく割り切った考え、計算づくではない。
結果よりも生き方を問題にしています。
上司としての能力のなさで、仲間を犠牲にしたことは
褒められることではありませんが、
職をまっとうする姿勢に敬意をはらう。
人間味を感じる映画でした。
【いもたつLife】
張り込み 1958日 野村芳太郎
張り込まれているのは、殺人犯の元恋人で、
今は愛とは無縁の結婚をし、
そこそこの暮らしができる三人の子持ちの男の後妻の身です。
張り込んでいる二人の刑事の一人はこの女を自分に重ねます。
この作品の注目がそこでした。
女は表向きは普通の生活です。
それは、自分らしさを自ら封印した姿です。
(そういう姿を演じている高峰秀子は本当に上手い女優です、
「永遠の人」でも発揮されていましたが)
誰しもその姿を演じている生活がありますが、
それをもって生まれた性のような、恐さで表現しています。
ここに、男は自身を振り返るきっかけを掴みます。
観ている私も、映画をみながら自身の私生活を振り返りそうです。
人生の意味、はかなさを、戻らない時間を。
しかし・・・、ここからです。この映画の後どうするかです。
女はどうしたか。想像の意味はありません。
「あなたはどうしますか?」これを刻めば良いと思いました。
張り込む=刑事ふたりが、女を観察する、その映像が単調に続きます。
そのあきてしまいそうな中に、意義を入れ込む仕上りは、
役者陣と監督陣がこの作品共通の意識があったからこそでしょう。
この映画も当時の映画力を感じさせる作品でした。
【いもたつLife】
永遠の人 1961日 木下恵介
不幸にして夫婦になったがために、お互いが許せず、
30年もの間憎しみ会う夫婦と、それにまつわる家族、部落の話です。
この夫婦の三人の子供のうち長男は、父が母を犯した時の子であると知り
(不幸な結びつきの結果が自分)自殺します。
「子供には罪はない」と二人はわかりながら、憎しみに子達を巻き込みます。
子を持つ親として、許せない結果なのですが、この心理が痛いほどに伝わってきます。
二人もまた、前の世代や、ずっと続いている部落のシステム、時代背景に
巻き込まれて生きてきました。
話は昭和36年時点で終わります。
やっと自由、きっと今までと断ち切ること、この夫婦の次の世代からは、
これまでとは違う次元の時代に入ったそれを示唆している終わり方を感じました。
この頃の空気はきっとそうなんだったのではないでしょうか?
確かに、私が過ごしてきた時代は、この物語のベースとなっている
環境やしがらみよりもはるかに幸福な中で過ごすことができました。
この映画を観ながらもそれに感謝します。
ただし、この映画ではこの後の世代に、
もっと精神的な自立を期待したラストだったと今みると写ります。
環境が幸福になると同時に、精神の甘えをついつい持って時が流れた。
・・・このラストから約50年がそんな時代であったことを回想しました。
【いもたつLife】
西部戦線異常なし 1930米 ルイス・マイルストン
第一次大戦のドイツでの最前線が赤裸々に描かれています。
最前線にいるものだけが語れる、戦争が語られています。
だから、この映画の本当のことは未経験ではわからないのです。
だから、この映画を観ておかなければならないとも思います。
「戦争はなにか」のひとつの基準を示しています。
でも、戦争はいつの世もなくならない。
人間は本当は殺掠を好んでいるかという感覚になります。
たまたま戦後の日本に生きていることでの感覚の方がおかしい、
のではと悲しくなります。
西部で勝利をあげてそれが脚光をあびる以外、
戦争が終わるまでずっと、
「西部戦線は異常はない」と言い続けるのが戦争です。
【いもたつLife】
好人好日 1961日 渋谷実
飄々とした笠智衆はじめ脇を固めるキャストの演技が楽しい映画です。
胡散臭い奴でも、天下が認めると、その胡散臭ささえも魅力となり、
なびいてしまうのは世の常。
だけどそんなの関係ないじゃん。の主人公です。
俗人の私がみてちょっとムッとすることでも、
そんなの関係ないじゃん。は、
そうなんだと納得します。
だって俗人は(自分も含めて)そんなもんです。
そして、ムッとするとしたら、自分の卑しさを語るようなものです。
そんなことをあっさりと笠智衆がコミカルに語ってくれました。
【いもたつLife】
レインメーカー 1997米 フランシス・フォード・コッポラ
4人の弁護士(一人は弁護士の資格はない)を通して、
初心と今を写していました。
それと、金と名声への警鐘です。
1、弁護士になりたての主人公、無一文です。
2、やり手の弁護士、正義は二の次、でも依頼人には利益をもたらします。
その結果高所得も得ています。
3、もう一人の弁護士はヒールです。法律ぎりぎりです。
依頼人に利益をもたらしていますが、魂は売っていません。
主人公はロースクール後ここに勤めます。
4人目は、ヒールの補佐的存在、主人公の相棒です。
弁護士試検には合格していませんがプロです。庶民の代表です。
ストーリーの焦点は、主人公とやり手です。
もちろんこのやり取りも、これ以外のエピソードも楽しめます。
だけど、本質は人は初心を忘れようとしていないけれど、
勘違いで全く別人になっていることです。
知らず知らずで。
悪い訳ではありませんし、ここに表されるだけで四様です。
これは警鐘ですが、もう一つ、
金と名声を得る、もっとつっこめば、世間の期待に沿えることに自分をおくことを
拒否した主人公はお手本です。
これがこの映画のもしかしたら一番の提唱と私は心に響きました。
【いもたつLife】