いもたつLife
【国立劇場歌舞伎 妹背山婦女庭訓 <第一部>】

時代は大化の改新の頃、太宰の後室 定高の娘 雛鳥と太宰と勢力を競い合う大判事清澄の息子 久我之介は深く愛し合ってしまいます。もちろん禁断の恋です。
三幕構成で、第一幕、二幕は三幕のための仕込みです。
三幕は、雛鳥と久我之介、太宰と大判事家を隔てる吉野川を真ん中にドカンと据えて、両側に両家を配置し、そして花道も二本、それぞれの家に通じているという舞台設定です。
蘇我入鹿の命は、雛鳥も久我之介も殺すことと定高と清澄を殺すことです。
最愛の子をそれぞれ殺さなければならない途方もない哀しみ、それでも、あの世で添い遂げるようにさせたいという定高と清澄の心、殺されなければならないことを悟り、それを受け入れる雛鳥と久我之介、二人もあの世で添い遂げることを望みます。
その悲哀をこの舞台設定を活かして、十二分な情けの心を発散している芝居で、鳥肌者です。
情けがない入鹿がこれがきっかけで葬られることも示唆されます。
「妹背山婦女庭訓」が義太夫狂言屈指の名作と言われることに頷くばかりでした。
【いもたつLife】
ゴダールのマリア 1984瑞西/仏/英 アンヌ=マリー・ミエヴィル/ジャン=リュック・ゴダール

第一部の主人公は、マリー(レベッカ・ハンプトン)で、離婚寸前の両親の間の健気な少女です。
第二部は主人公のマリー(ミリアム・ルーセル)が処女懐胎する話です。
第一部と二部は直接の繋がりはありません。第一部の終わりに「その頃」として二部に撃がれます。そして主になるのは第二部です。
処女懐胎がとても自然に軽快に描かれます。そこかしこで起こっているかのようなノリです。マリーもそうですが、ジョセフ(ティエリ・ロード)も人間臭く、どこにでもいるただの男です。けれどマリーは、イエスを産むその使命は心得ているようです。
そしてイエスが産まれると、やれやれとばかりに普通の女に戻ります。
キリスト教の非常にデリケートな部分をカラっとした映画にしてしまっている、大胆な映画という感想です。
【いもたつLife】
パウ・パトロール パウ・パーティー in シアター 2023米/加

本編2作、劇場来客を誘うダンスに歌、最後は写真撮影サービス、以上を60分にまとめてあります。
パウ・パトロールは、サンダーバードとサイボーグ009を想わせます。
キャラクター設定を活かして、たぶん味付け(翻案)してあるパウ・パトロール隊の吹き替えが良いです。
幼児対象(孫と鑑賞)ですが面白かったです。
【いもたつLife】
8月大歌舞伎 新・水滸伝

大掛かりなセット、凝った美術に音楽、照明、豪華キャストしかも50人ほどの大人数の役者のスペクタクル スーパー歌舞伎でした。
場面展開も早く、大掛かりなセットを動かしまわる裏方スタッフも腕の見せ所でした。そのカット割りのような場面展開は、映画を観ているようで、実際に目の前で展開していることが不思議に感じるほど、鮮やかで巧みでした。
物語の水滸伝は普遍的な哲学を備えたエンターテインメントで、それを満喫しました。
【いもたつLife】
グランシップ寄席~ニホンノコワイハナシ~

寄席の題名は【震える夏】
副題は「落語・講談・浪曲で」「日本の三大話芸で“怪談”をたっぷりと・・。」でした。
会場前から薄暗く、会場ももちろん暗く静かな音響と、怪談の雰囲気で始まりました。
寄席の枕で、浪曲師の玉川奈々福さんから、浪曲、講談、落語の似ている点、異なる点の説明があり、同じく奈々福さんと曲氏の広沢美舟さんの浪曲です。
中入り後、林家つる子さんの落語、神田阿久鯉さんの講談、トリは立川談笑さんの落語です。
わたしのお目当ては談笑師匠でしたが、つる子さんの「皿屋敷」も浪曲も、講談もお見事の芸でした。しかし、やはり談笑師匠でした。
主催者のグランシップ側から怖い噺をしてくださいとの要望があったそうで、落語の怪談話はどれも面白くて怖くないので、この寄席のために新作を作ってきたということです。ご自身もおっしゃっていましたが、私も落語で「震える夏」はどうするのだろうと、気にしていたので、「今日の噺は面白くありません」という談笑師匠の宣言の新作でした。所々笑いはありましたし、枕も含めてゾッとする雰囲気を醸し出す談笑師匠のプロ根性をたっぷりと味わいました。
【いもたつLife】
ウィルスVSヒト 人類は見えない敵とどのように闘ってきたのか ジョン・S・トレゴニング 【著)

コロナ禍をきっかけにウィルスについて再確認のために読み始めましたが、ウィルスだけでなく、細菌感染、寄生虫等々についても詳しく、歴史を踏まえて網羅されています。
日本に住む私たちは、たまたまここ数十年はウィルス等の感染の脅威にさらされていなかったことがコロナ禍を体験したことにより身に染みる内容でした。
【いもたつLife】
【spac演劇】Dancing Grandmothers~グランマを踊る~ アン・ウンミ演出

ふじのくに世界演劇祭の最終演目で、フィナーレにふさわしい作品でした。
3部構成のダンス演劇です。
1部は演出家のアン・ウンミさん自身と鍛え抜かれた男女ダンサー9人のグランドマザーを踊る劇です。
たどたどしい踊りから始まり、徐々に激しく、力強い踊りになっていきます。10人が舞台上で出入りするのですが、その度に衣装も変わっていきます。色々な解釈があるとは思いますが、私は、グランドマザーが段々と年若く人生を遡る様を演じているように見えました。
最後は子宮にかえっていくようです。
2部は韓国のグランドマザーが踊ります。それを映像で次から次へとみせてくれます。
職場で、商店の店内もあれば店外も、また畑仕事の途中や、港等々、家の中もあれば、老人ホームのような施設内もあります。観光地もあれば空港待合室もあります。
いろいろな場所、シチュエーションで踊るおばあさんたち、皆笑顔です。
3部は日本の年配の女性10名と劇団のメンバーとのコラボレーションで、グランドマザーを踊ります。
19人で、ペアで、ソロ等々でみせてくれます。
年配の女性たちはメンバーに促されていきどんどん活き活きしていきます。みていても楽しくなっていきます。
そしてラストは観客をも踊りに巻き込んでの大団円です。
2部と3部の間に字幕で「笑う門には福が来る」「踊る門には福が来る」が出ますが、まさにそれを実感する劇でした。
踊りがもつ素晴らしさ、それに触発された人の本能が露わになるとそれは幸せを無から作り出す力が発揮されます。それを強く感じました。
演劇祭の締めくくりにこれ以上の劇はないと思わずにはいられませんでした。
【いもたつLife】
【spac演劇】天守物語 宮城聰演出

この演劇祭での二度目の観劇は、一度目よりも遠目です。上から見下ろす席でした。
役者の動きが仕草が俯瞰できて、二度目ということもありそれらをじっくりとみれます。
この劇、台詞で状況を把握するのですが、役者間の動きと位置関係でまた仕草でや役者の心情はもちろん、天守と天守下でなにが起きているかをしるします。
そのためにムーバーとスピーカーに別れているのが、今回よく解ります。
特に主役富姫の美加理の仕草と動きは素晴らしいです。
富姫の美しさと図書之介を愛してしまった後悔をしない心と姫としての凛々しさが伝ってきます。
(spacの)宮城さん演出の劇ではマハーバーラタが代表作と思っていましたが、それ以前に造られたこの天守物語も代表作であり、完成度の高い劇だと改めて実感しました。
【いもたつLife】
【spac演劇】天守物語 宮城聰演出

10年以上前に「天守物語」を観劇していますが、その時との演出の違いは覚えていません。今回久しぶりに観てSPACらしい、宮城總さん演出らしい天守物語でした。
白鷺城の第五重は魔界の世界で、その富姫と、人間界の図書之介が恋に落ちます。
異世界のモノどうしが惹かれ合うのは宇宙戦艦ヤマト等のSFと同じです。制約があるがゆえにその恋が加速するのは、ロミオとジュリエットでもみられます。また差別を超えていく恋は招かれざる客等、枚挙に暇はありませんし、この映画は1967年ですからまだたった56年前に、この天守物語と同じ葛藤が身近に感じられていたということでもあります。
さて富姫と図書之介ですが、本人たちの気持ちがすぐに適う訳はありません。失明や命の危機にも陥ります。しかし大いなる力は二人を救います。
これは人間の歴史でもあると感じました。
人間社会は全くの未熟です。でもとても良い所もある。
争いは絶え間ないけれど、ほんの少しずつではあっても変わっているのも間違いではない、それは、大いなる力ともいえるのではないかと思いました。
それはさておき、魔界の世界の大騒ぎや大団円となるSPAC天守物語はこいのぼりの衣裳や獅子舞をはじめとし、美術、そして力強くもありしみじみとも響く音楽、観ていて楽しいです。また役者たちの動きも素晴らしい劇でした。
【いもたつLife】
【spac演劇】XXLレオタードとアナスイの手鏡 チョン・インチョル演出

スクールカーストを扱っていますが、かなりコミカルでまるで問題なしとの雰囲気を醸し出していますが、かえってそれが問題の根深さを感じます。
この劇は2014年のセウォル号事件がきっかけで制作されたとのこと。事件は韓国に巣くう歪が露わになり、それらが劇中に盛り込まれているようです。
ですから、一見なにげなさの中に波乱がふくまれていると解釈しました。
また、舞台は三方が壁で被われていて観客席にだけ開かれています。舞台から楽屋に行けない構造です。閉鎖された空間はスクールカーストを産む土壌であり、ひいては韓国社会のかつてのありようなのでしょう。
その三方塞がれた舞台では観客席から登場した役者たちは劇中ずっと舞台上です。演技をしていない時でもそこにいるということは、直接の関係がない時も、他の役者に影響を与えている効果が出ると解説されていました。
確かに、人間関係というのは直接のやりとりでだけで関係が出来上がるわけではありません。それを強調している演出でした。
重たいテーマではありますが、とても見やすくてところどころ笑いが起こります。80年代のコミカルな日本映画を私は連想しました。
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