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いもたつLife

彼女のいない部屋 2021仏 マチュー・アマルリック

映画はクラリス(ヴィッキー・クリープス)とその家族に何かが起きたことを、クラリスの目線で粛々と語られます。
このクラリス目線というのが味噌で、過去と現在の現実とクラリスの多分想像の二つの軸が交錯して示されます。
現実もクラリスが今感じている現在や彼女が振り返りたい過去の事実を映しているので、もう一つの軸の彼女の想像と遠く離れていない感触の映像です。

この家族に何が起きたのかが段々と判明していくそれまでの映像クラリスの心情であったことが痛感していきます。
そしてだからこのような構成をとったことも納得していくことになります。

造り手がクラシスの途方もない喪失感をどうすれば伝わるかを伝えようとして出来上がつています。
斬新な伝え方です。

【いもたつLife】

日時:2022年11月20日 15:57

【義経千本桜 四段目】国立劇場

道行初音旅 清元連中・竹本連中、河連法眼館の場

この段は、忠信と忠信に化けたキツネの二役をどう演じるかがキーということで、その通りで、尾上菊之助がみせてくれます。
この通しの「義経千本桜」は尾上菊之助が、二段目の知盛と忠信、三段目のいがみの権太を演じるのが目玉ですが、この四段目は他にもましての見事さでした。

この段は舞踊で始まりますが、これが活きている演出で、これまでとは違う歌舞伎の凄さと面白さを堪能しました。

同じ物語を何度も観たくなるのは、物語自体の面白さはもとより、歌舞伎も文楽も何百年も培われてきた演出方法や名演技を既習し超えようとするからで、深さは半端ではないことを実感します。

【いもたつLife】

日時:2022年10月28日 16:14

【義経千本桜 三段目】国立劇場

下市村椎の木の場、下市村竹藪小金吾討死の場、下市村釣瓶鮓屋の場

つくづく凝っている脚本です。
この段の主役は“いがみの権太”で、権太はその通り名の通りほとほと“いや”な輩ですが、段の終わりには様変わりで悲劇の忠心者に変わります。しかも権太の意を汲む妻子までが命を投げ捨てるのです。
その権太をどう観客が捉えるかになりますし、演者はどう役作りするかになります。

その権太の周りを固める人物像も、話の進め方も、本当によくできている物語で、これは誰がどうやるかと、どこに焦点を絞るかで見ごたえと見どころが変わってきますし、それが歌舞伎や文楽の楽しみであることが、うっすらと解ってきました。

【いもたつLife】

日時:2022年10月27日 16:13

【義経千本桜 二段目】国立劇場

伏見稲荷鳥居前の場、渡海屋の場、大物浦の場

静御前との別れ、弁慶と忠信との主従のやりとりを見せておいて、場が変わり、知盛との対決に移ります。その序盤は、義経勢と知盛勢との知略があり、そこに安徳帝の生死が関わってきます。盛り上げておいて義経たちと知盛との決着になります。

人気演目らしく、とてもよく出来ています。伝えられているわけです。
この段では数々の歌舞伎役者が知盛を演じてきて、凌ぎを削ってきたことが伺えます。

今回国立劇場で義経千本桜が通しで観られるということで楽しみにしてきましたが、この二段目、まずは堪能できました。

【いもたつLife】

日時:2022年10月26日 16:12

【グランシップ文楽2022】

「花競四季寿」より万歳・鷺娘/「冥途の飛脚」~羽織落としの段~封印切の段/「団子売」/「菅原伝授手習鑑」~寺入りの段~寺子屋の段

昼の部、夜の部、合間に文楽の解説講座がある三本立てで文楽三昧の一日でした。

昼の部も夜の部も“舞踊”で始まり“主文楽”になります。
昼の部は世話物が主で、それに準じた“舞踊”でした。
夜の部は時代物が主で、舞踊は裏腹の楽しい“舞踊”でした。

文楽も回を重ねて観てきて、人形の動きと浄瑠璃の圧倒的な語り、また三味線が物語の背景や人物の心情を表す効果が、頭ではなく感覚で解ってきて、深みに酔いしれるというのが今回の観劇でした。

人形のしなやかな動きは、三人で操っている息の合った芸術芸に驚きますが、それ以上に人の仕草そのものに見えます。語り手の浄瑠璃の迫力はナレーションと台詞で語り方が違い、台詞と人形が相まみえると人形の仕草に言葉が宿るようです。もちろん三味線も浄瑠璃を後押ししています。

文楽は、人形を使って観る者に人形ではないと錯覚させる力があります。

【いもたつLife】

日時:2022年10月25日 16:11

【spac演劇】ペール・ギュント 宮城聰 演出

10年ぶりの上演ですが、“ペール・ギュント”の一生を明治維新後の日本になぞらえて作り直されての再演です。すごろくをモチーフの舞台は変わりませんが、雰囲気もセリフ回しも衣装も、そしてテーマも違ったものでした。

ペール・ギュントはエネルギッシュでやんちゃでエゴイストで、どちらかと言えば良い人間ではありません。その姿を若かりし頃の日本、そして老いていく日本に重ねます。
でもこの演劇、やはり個人の生き方を示唆しているのは変わらないという感想です。

やりたいことをやってきたペールに、ボタン職人は「自分らしかったか?」と問います。ペールは自分らしく生きたと言い張りますが、ボタン職人はそれを拒否します。
これは痛烈に観る者を皮肉っています。
最期ペールは、棄てたソルヴェイに安らかさを与えられます。ソルヴェイだけがペールの味方でもあるように見えます。これも私たちの人生に重なります。

劇は、ペールの壮大な生き様を活き活きと、また波乱万丈に、巧妙なセットと力強い打楽器、そして次から次に繰り出してくる姿も形も立場も違う演者の中で、あくまでもペールが主役で突き進みます。
ペールは人生の終わりにどう落とし前をつけるかに焦点が絞られます。
徐々に年老いていくペールで、生きていく選択肢が狭まれていくという、これも避けることができない我々の姿です。
死ぬ運命を背負う人間の一生懸命に生きても大したことはない人生を謳っているようです。

でも皆それに抗っている。そしてソルヴェイがいるかもしれない。そんな「ペール・ギュント」でした。
主役の武石さんに拍手です。

【いもたつLife】

日時:2022年10月24日 16:10

【9月 大歌舞伎】仮名手本忠臣蔵/藤戸

忠臣蔵の七段目です。由良之助が花街で興じていてその真意を敵味方が計る段です。

お茶屋で遊女おかるは由良之助の密書を観てしまい真意を知り、そのため仇討に加わりたいと由良之助に直談判に来た足軽の平右衛門に殺されそうになると、実は平右衛門とおかるは兄妹だった。また、おかるの夫勘平は仇討が叶わなかったり、父は、由良之助の真意を量りに来た九太夫に殺されてたりと、事実は小説より奇なりの逆設定なのですが、これが面白さを何倍にもしています。
それを具現化しているのが歌舞伎で、昔から嬉々として忠臣蔵を観ていた人々の一人に、私も加わりました。

藤戸は能の「藤戸」を基にした舞踊劇でした。
前半は能を想わせ、中盤は狂言の様、そして終盤は重厚で重層な歌舞伎らしい舞踊です。
劇と踊りと演奏と台詞廻しが場面場面で様々で、どれも出色で、今まで観てきた歌舞伎の舞踊劇の中でも最高峰の舞台でした。

【いもたつLife】

日時:2022年09月19日 16:25

シネマ歌舞伎 野田版 鼠小僧

歌舞伎役者を演者にした、鼠小僧を題材にした、野田劇場でした。
鼠小僧も、代官(大岡越前)も歌舞伎版とは一癖も二癖もある人物になっていて、人情味も合って冷徹という、あり得る人物で、他のキャラクターも同じくで、それらを縦横無尽に走らせます。
スピーディーな喜劇に仕立ててあります。そしてほろっともさせます。

歌舞伎役者の芸達者ぶりも楽しめます。

【いもたつLife】

日時:2022年08月28日 16:23

刀剣x浮世絵 武者たちの物語【静岡市美術館】

浮世絵の中でも武者のものばかりを、しかも「平家物語」にまつわる浮世絵と、数々の刀剣の展示でした。

平家物語の史実と伝説は歌舞伎をはじめとした多くの娯楽作品になっていますが、そのどれもがなじみのあるものばかりです。それを伝える浮世絵を観ていると、もう何百年も前の方々たちも、今の私達も、同じ題材で喜怒哀楽を感じる、求めるということを実感すると感慨深くもなりました。
刀剣の歴史も知れて、こちらはその時代により求められる機能で変わってきたことが解ります。当たり前ですが盲点でした。
刀と言えば時代劇の殺陣が頭に入っているからでしょう。

とても多くの展示があり疲れる程見入ってしまいました。

【いもたつLife】

日時:2022年08月26日 16:21

シネマ歌舞伎「女殺油地獄(仁左衛門)」

一世一代の名舞台でした。
シネマ歌舞伎だから観ることができましたし、
シネマ歌舞伎だから仁左衛門の所作も仕草も表情もズームアップで観ることができます。
そして、それを活かすのは浄瑠璃と、相手役です。

みていて仁左衛門の寿命が縮まるのではという鬼気迫る舞台は、こちらまで動機が高まります。
凄みがある歌舞伎でした。

単なる市井の凡人が狂気に変わっていく怖さは、他にもありますが、この上ない切実さでした。

【いもたつLife】

日時:2022年06月30日 11:59