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ブログ 今日のいもたつ

銀幕倶楽部の落ちこぼれ

時の重なる女 2009伊 ジュゼッペ・カポトンディ

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お見合いパーティーで知り合ったカップルが、
強盗殺人事件に巻き込まれます。

男は元警官の警備員、豪邸を警備していましたが、
何故か彼女をその豪邸に呼んだ日に限り、
セキュリティをはずし、強盗が来るという偶然が重なります。
警察は彼女を疑いますが、
男が撃たれた流れ弾で、彼女も傷を負っています。
彼女は事件にかかわりがあるのか?
というお話です。

映画(物語)のつくられかたが凝っています。
真相が徐々に明らかになりますが、
それは彼女の夢の中ということで、どこまでが真相かの疑問が、
映画中盤に投げかけられます。

その後、夢の中の出来事が現実と非現実に分けられていくのですが、
今のシーンは本当に現実かを観客は引きずります。

言い方は悪いのですが、ネタ以上に緊迫感があり、
謎めいた展開になる演出です。

序盤の伏線が回収され面白さとなるところと、
あくまで、夢の中のこととして、現実ではないとして残すところも、
ミステリーの度合いを高めます。
すっきりしないともいえますが、観客に委ねているのでしょう。

放蕩娘を受け入れられないけど、父はやはり親心があることをさりげなく見せたり、
愛するがゆえに、真相を心にとどめる元警官の姿等、
頭でわかることと、行う行動は大きく違うけれど、それが人らしいシーンや、
倫理観や、良心と反する行動をとりながら、でもやめられない苦悩の主人公を観ると、
テーマは人が持つ矛盾の肯定なのかと感じます。
その観点で振り返ると、映画のつくり方はしっくり腑に落ちる気がします。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年11月10日 07:37

イル・ディーヴォ 2008伊 パオロ・ソレンティーノ

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魔王と呼ばれたイタリアの元首相ジュリオ・アンドレッオッティの半生の映画です。
まだ存命中であるので、完全に悪として描かれていませんが、
存命中にしては、かなり際どい黒い部分を描いているともいえます。

イタリア現代史に疎く分わからないところが多かったのですが、
監督は誇張と華やかな映像に、いろいろな音楽を組み合わせて、
スタイリッシュな政治映画に仕上げていると感じました。

繰り返しますが、イタリア史に疎いために、
どこまでが普通に知られていたかがわかりませんが、
真っ黒であった首相の姿がかなり赤裸々にされています。
イタリアの人々は、彼やマフィアの存在を
認めているということはないのでしょうけれど、
必要な欠片という感覚で付き合っていたのではないかと、
映画をみて感じました。
私達とは結構違う政治観です。

そして、省略が随所なので、
考える余地を多くしてある映画とも思いました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年11月09日 07:43

アレンジメント 愛の旋律 1969米 エリア・カザン

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主人公のエリートサラリーマンは、子供の頃から両親に、
仕事が出来ることから会社に、
成功を収め幸せな家庭ができてから妻子に、
常に期待をされ続けていました。
それを疑問と気づきました。

そこからの主人公の振る舞いは、
狂気的にも見えます。
鬱が続き時折、躁になることで、周辺の人から受け入れがたくなっていきます。
受け入れがたくなって欲しい行動ですから意を得ているのですが、
自らを傷つけていく行為は病的です。

人は周りからの期待で、成長し力も引き出されます。
そこから生きがいも生まれるし、主人公とその家族も、
羨ましいほどの豊かな生活を謳歌できていました。

期待されないことは人に絶望を与えます。
この塩梅はもっと意識的でいたいと思うばかりです。

超自我を意識した主人公の変貌は、理解できないほどです。
自分が理論でしか知り得ないからです。

会社が、妻子が、次々に主人公から離れます。
悲しいのは、主人公と共に生き抜くことを決めていた妻が、
彼と生き直せなかったことです。
彼は人生をやり直す=まず現状を壊す手段に、
不倫、自殺、仕事をしないを選びます。
その彼を支え続けようとする献身的な妻です。
私も妻にエールを送っていました。
妻役はデボラ・カーです。献身で良妻賢母そのものです。
けれど妻が財産すべてがなくなりそう、夫(主人公)がそれを選ぼうとすると、
変わってしまいます。今を捨てきれないのです。
でも現実で、だから現実は厳しいと痛感します。

唯一主人公を理解していたのが、
彼の存在だけを尊重したのは、不倫相手の女でした。
これも綾です。

自己を壊してまで超自我からの支配を逃れたい。
生きる意義を知って、それを全うしたい。
エリア・カザンが渾身でつくった映画です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年10月19日 07:28

黒い河 1957日 小林正樹

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映画は、純な有馬稲子と渡辺文雄の恋愛に、
ヤクザな仲代達也が割って入る話ですが、
設定が面白いです。

米軍基地周辺で、基地で経済が回っています。
そして、盛りたてるのが、渡辺文雄が住む長屋の住人達です。
曲者ぞろいです。そして因業大家の山田五十鈴にも注目です。

人の欲、可愛い欲からとりとめなく溢れてくる、いやらしい欲まで、
愛憎を絡めて画面に流します。

長屋連中のコメディタッチが、弱者のしたたかさと、
やるせない行く末は、笑いの先の空しさを感じます。

そして、一線を越した有馬稲子はどうなるのか。

最初と最後で彼女は全く違う女になりました。
これも生きていくためでしょうか?
小林監督は、とても厳しい現実を登場人物に突きつけます。
そして貴方は何を信条としているかと問うてきます。

活き活きした役者の演技合戦も大きな見どころです。
日本映画の魅力が楽しめます。

追伸
10/08は「寒露」でした。二十四節気更新しました。
ご興味がある方は、干し芋のタツマのトップページからどうぞ。
干し芋のタツマ
二十四節気「寒露」の直接ページはこちら
寒露

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年10月10日 07:49

汚れた心 2011伯 ヴィセンテ・アモリン

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終戦直後のブラジル、日系移民同士の対立、抗争です。
日本人同士が殺しあう悲劇です。

根底にあるのは、“否定できない自分”です。
人の性で、哀れな性、でもいつでもどこでも、
自分を、過去から今までの自分を肯定しなければ生きられないのが人です。
そしてそのためには、どんな事実も自己都合に置き換えることを厭わないのが人です。
自分ももちろん同じです。
平時はこのことで問題はありません。

この悲劇の舞台裏は戦前からの多くの積み重ねです。
教育の恐ろしさ、
妬みのはけ口、
自己陶酔する心、
よりどころを失う怖さ、
生きていかなくてはならない運命、
それらの積み重なりが善悪を心から消し去ります。

やってはいけない、本来なら心ある者ならできないことまで、
やることを疑わなくなります。

つくづく人は相対の中でしか判断できないことを、
この映画でまた思い知らされました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年10月09日 07:30

かぞくのくに 2012日 ヤン・ヨンヒ

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ラスト、主人公の妹が、兄(主人公)に託された自由に向けて歩きます。
思考停止することのもったいなさを自覚するように。
希望を得る困難を自覚するように。
この映画の主旨のひとつであり、
私が最もメッセージとして受け取ったのが、
自由(希望)を得ることへの無自覚な思考停止の己への罪です。

もちろん、かぞくがテーマです。理不尽なかつて「地上の楽園」と言われて、
北朝鮮に移住した在日朝鮮人の悲劇が骨子です。
でも、それは胡坐をかく日本人へのメッセージにもなっています。

『キューポラのある街』では、洋々として北朝鮮に向かう少年が描かれます。
同じ時代の映画『冬の小鳥』では
韓国では幸せになれない少女が里子に出されることが描かれます。
今となっては地団駄な対比に映ります。

大きな権力に無力な個人が、
制約の中でできることは何か、
考えても考えたも、何もできないことしか見つからなかったとしたら、
人らしく生きていけるのか。

壮大な社会実験だった社会主義対資本主義が生んだ、
たくさんの社会的な矛盾を痛感する上で、
生き方そのものを問う作品です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年10月07日 09:43

夜の河 1956日 吉村公三郎

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主人公は山本富士子です。
京の老舗の染物屋の娘で、斜陽の業界ながら立て直す気概があり、
それを成し遂げます。それと共に、阪大の教授と(不倫の)恋愛関係になります。

その彼女が、商売でもプライベートでも、元々素晴らしい女性でしたが、
ひとまわりもふたまわりも大きくなります。
その背景ですが、人の機微に触れる映画です。
特に鈍感男性と、敏感で必死で、女性として誇りある生き方との対比です。
(鈍感男性が魅力ないということではありません)

その凛とした女性像とこの作品の山本富士子は同一です。

前半は小沢栄太郎や山茶花究たちで、外堀の彼女の心理外の成長を固めて、
後半は彼女の内面の成長を、これが一筋縄に行かない演出で現しています。
そして、色を効果的に使い、ロケや列車内の映像も彼女も心情を語ります。

山本富士子を絶賛できる映画ですが、
人が放つ一言の重みをその背景、
人(女)が生き方を決める様をみせたとても良い作品でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年09月11日 07:36

雪国 1957日 豊田四郎

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あまりにも有名な書き出しから、この映画もはじまります。
年に一度、女(駒子)を求めて都会から来る男。
女も男を待ち焦がれます。
そして、もう一人の女(葉子)は、
駒子にとって自分にないものを持っています。

男は日常では得られないものを駒子に求め、それに駒子は応えます。
男は劣等感を癒され、自負心を取り戻します。
駒子は、男を通して束の間の幸せを超えた自己の存在を確かめようと、
言い聞かせるように、男がいなければなりません。
ただし二人とも偽りと知る心をどこまで覆い隠せるかが問題でした、

そこに葉子が登場します。
彼女は、二人にとって現実を見せながらも、
心を覆い隠す言い訳になるなくてはならない人物です。

駒子の、大人びた嫉妬、無邪気な少女、情熱的な恋人、男のために嘯く態度、
男を懲らしめる態度、恋焦がれる気持ち・・・、
岸恵子が非情に演じます。
運命から雪国から抜け出せない葉子を、八千草薫が可愛く儚く演じます。
男 池部良も渋く演じます。

都会から逃れる男が雪国に求めるものは、
雪国だからという映像。
雪国から逃れられない女を閉ざす雪深さの映像。

それらも印象に残りました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年09月10日 06:01

踊らん哉 1937米 マーク・サンドリッチ

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フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのいつもの映画です。
いつも通り本当に素晴らしいです。

と感想はそこに尽きてしまうのですが、
他の作品よりもストレートなタップダンスのシーンではなく、
バレエと組み合わせたり、ローラースケートでのタップダンスなど、
一捻りあります。
船内のセットの踊りも凝っています。
そのあたりはその作品ごとに楽しめるところですね。

それと、ユーモアの切れがよく笑いが絶えません。

ジンジャー・ロジャースが、フレッド・アステアを嫌いから好きになる、
ブスッとした顔から可愛い顔とそこも個人的には楽しめました。
ワンちゃんも好演です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年09月09日 09:40

頓珍漢スパイ騒動 1952米 ジョージ・P・プレイクストン、C・レイ・スタール

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日本が舞台、とりわけ日本の芸者小屋?でのドタバタ劇です。

朝鮮戦争帰りのアメリカ兵二人が、水爆よりも強力な小型爆弾を
知らぬ間に手にしてしまうところから、事件に巻き込まれます。
話自体は他愛ないもので、
あっけらかんとしたアメリカ兵二人と、
スチュワーデスに扮したスパイのアメリカ女性と、
芸者一人が振り回されます。

当時この映画をアメリカの人達が興味深くみたかは、知る由も無いことですが、
今日本人がみると、
戦後復興してきている東京や、その人々の雑踏だけでも興味を引きます。

お気楽映画でした。

追伸
昨日は「白露」でした。二十四節気更新しました。
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白露

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年09月08日 07:25