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ブログ 今日のいもたつ

銀幕倶楽部の落ちこぼれ

浮雲 1955日 成瀬巳喜男

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浮雲の高峰秀子は、男には絶対にわからない女性そのものです。
それを描いたのだから、そこが成瀬巳喜男最高峰と言われる一因でしょう。

まず高峰秀子さんから。
男にはわからない女を演じますが、
理解出来ない情念を、多くのシーンの中で、
その時の森雅之と会う喜びを潜めた悲哀を演じます。
不世出の女優はここでも本領発揮です。
それを受ける森雅之も相当なものです。

浮雲という話は、
自分の器量を超えたことまで、
出来ないことを知った上でそれを認めようとしないダメ男が、
無意識に罪を作り、
高峰秀子演じる女が、そこから生じる不幸を背負う物語です。

終始一貫ドロドロした二人のやりとりがスクリーンを埋めます。

特異に見える二人は、特異ではないところが味噌です。
所詮だいたいが、男も女も世間の中で生きています。
世間がみせてくれた夢の中で生きながらえている。
かもしれないというのが鑑賞中の感想です。

二人のやりとりは繰り返すばかりです。
最後を迎えるまで。

その底流には、今の生活の真実を描いているように思わずにはいられません。
人は死ぬまで日常です。
それまで何も起こらないのです。
それが真実という成瀬イズムを感じました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年03月14日 07:29

めし 1951日 成瀬巳喜男

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二度目の鑑賞です。
一度目以上に脇役の盛り立てがわかります。

物語はハッピーエンド。
倦怠期の夫婦からはじまり、それを乗り越えます。
倦怠期は必要なものなのでしょう。
描かれる夫婦は誰もが通る道を通ります。
当人は自分達だけしか見えないもので、
夫婦(人)なんて起こった事象を自己都合に変えるものです。

そんなどこにでもいる二人が、
もう一度新鮮な夫婦に戻ります。
きっとまた倦怠期は起こるでしょう。
けれど、今回とは違うでしょう。

悪者は夫です。
ソコソコの甲斐性と、優柔不断、隙だらけの姿、
それに対して賢妻は不満を覚えます。
観客も妻を応援します。
だけど夫は無罪なのです。
ここが夫婦(人間関係)の綾です。

その表現が成瀬巳喜男らしい説得力に溢れます。

ラストのほのぼのとしたところも良いですね。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年03月13日 07:18

乱れ雲 1967日 成瀬巳喜男

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不可抗力で罪はなくとも人を殺めた男、
殺められたために遺されたヒロイン。
二人は結ばれてはいけない、幸せになってはいけない、
宿命を背負います。

けれど、男と女であり、幸せを自然と求めます。
けれど、、、

司葉子さんは20代の可愛い頃よりも、
30代になり、より美しくなってからの方が魅力があります。(私は)
それを見事に引き出した作品です。
そこには、女としての葛藤が、
台詞でない姿と視線と、まわりの雑踏の演出と、
もちろん彼女の演技で。
見事な出来栄えです。

「乱れる」の高峰秀子さんとは違った、素晴らしいヒロインです。

決して結ばれることがない”はず”の二人が
どうなるのか?
繰り返しますが、
二人とは相入れない雑踏の他の登場人物たち、
この演出が観ているものを、サスペンスに引き込み、
二人の純愛に憧れまでをも想わせます。

成瀬巳喜男この遺作でもたいしたものです。

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【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年03月03日 07:52

幕末太陽傳(デジタル修復版) 1957日 川島雄三

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立川志らく師匠の言葉の中に、
談志師匠は、
「佐平次は居残りが好きだから居残る」とのこと。
だから病のために品川に逗留するという設定、
はご法度と言っていたようです。
確かに納得できます。
けれど、この映画はそれがキーになっています。

フランキー堺の佐平次は川島雄三監督そのもので、
その死生観が現れた傑作です。

落語を取り混ぜただけでなく、
幕末の人間模様の世界をたまらなく上手く描いた素晴らしい脚本、
それは特筆ものですが、
やっぱり監督の手腕、神が降りてきたような映画です。

役者陣も嵌っていて、
(若手はちょっと感がありますが、これもアクセントでしょう)
人情劇として心を打ちます。

とてもカッコいい佐平次ですが、
どこまでも心が醒めています。
そのスーパーマンぶりで、
クールで銭稼ぎの人救いをしますが、
唯一「おひさ」にだけ心を打たれます。
唯一杢べいだけは佐平次は敗北します。
それを受けてのラストの逃走もこの映画の締めくくりとして見事です。

彼の手のひらの江戸の庶民も侍も、
いつもの世の中の人模様です。
それを相手にニヒルを演じる彼は、繰り返しますが、
川島雄三監督そのものです。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年02月11日 08:43

ベニスに死す ニュープリント 1971伊/仏/ルキノ・ヴィスコンティ

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ニュープリント上映とのことで、
二度目の鑑賞です。

前回は図書館での鑑賞でしたから、
今回は音が良かったです。
ニュープリントのふれこみですが、
赤い靴の方が綺麗でした。

映画は言わずもがな。
老音楽家の苦悩は、人が生きる姿です。
美を問い求める姿も人の本能です。

生きていく、老いていく、
また病理に犯される様を、
流麗な音楽と、
絶世の美少年と、
もう戻れない老音楽家で描きます。

その真理を鑑賞者に委ねる映画です。

機会があれば自分を確認するためにも
また観たい映画です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年02月07日 07:20

晩春 1949日 小津安二郎

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2度目の鑑賞です。そして久しぶりの小津映画です。
1度目はあまり映画をみていなかった頃、
そして初めての小津映画でした。
改めての鑑賞は、表面に現れた描写以外の
昭和24年の日本発のメッセージも含まれているという印象です。

多分当時としては、裕福な家族が物語の舞台で、
そこでの父と娘の関係が主として、
人間愛がさりげなく語られます。
けれど、この立場にある日本も写しているように思えるのです。

それは風景であり、茶の湯であり、能であり、
五重の塔であり、コカコーラのカンバンであり諸々です。

また、小津映画をいくつか観てきて、
彼のユーモアがこの映画でもこんなにあふれているのは
1度目では気がつきませんでした。
他の小津映画も2度目の鑑賞をしてみたくなります。

安定した完璧な映像、必要最小限の台詞は
1度目の印象以上で、
それは原節子の演技でも感じます。

ラストの笠智衆の姿は、原節子の幸せとの
ギャップとして、娘を嫁がせる父親ならばだれも胸を打つ名シーンです。

追伸
昨日は「立春」でした。二十四節気更新しました。
ご興味がある方は、干し芋のタツマのトップページからどうぞ。
干し芋のタツマ
二十四節気「立春」の直接ページはこちら
立春

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年02月05日 08:15

アパートの鍵貸します 1960米 ビリー・ワイルダー

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ラストはハッピーエンドだろうという流れですが、
最後の最後までひっぱります。
多くの小道具や伏線と練られた脚本で、
最後まで惹き付けてくれます。
名作のカンバンは伊達ではありません。

基本はラブコメディですが、
サラリーマン社会へに風刺や、
安易な生き方への皮肉も込められています。

主演二人は不器用です。
その二人が成長して終わります。
娯楽映画の王道でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年01月18日 07:21

エンディングノート 2011日 砂田麻美

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皮肉にも、定年になり、
これから夫婦が楽しめるということになった途端に、
末期がんの宣告をされた主人公のドキュメンタリーです。

撮影、編集、監督が主人公の次女で、
かなり前からたくさん、常に家族を撮影していた、
そして主人公自らも、かなり古くからフィルムを残していたので、
その膨大な時間の流れの記録がちりばめられた
素晴らしいドキュメンタリーです。

映画の骨子は、
末期がんの発見から葬儀までの半年を追っていくというものです。

重いテーマですが、淡々とユーモアを交えて進みます。
そこには、高度成長を支えていたサラリーマンの姿や、
それを支える家族像があります。

そして監督は(娘である以上に)
主人公のキャラクターを観察、わかっていて、
映画としてみせる仕上がりにしています。

ドキュメンタリーならではの味わいが深く、自然に描かれた映画です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年01月17日 05:59

戦争は終わった 1966仏/瑞 アラン・レネ

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スペイン内戦の終了後25年経っても、
革命活動をしているのが主人公です。
活動の場面があるわけでもなく、
25年活動を続けた男の内面が描かれています。

主人公は革命に疲れてしまった男です。
また、彼の妻も同じ様子です。
それと対比するかのように、若い革命家達も登場します。

きっと彼らは主人公の25年前なのでしょう。

この若者達も同じ道を歩むのか。
そして彼はこのままなのか。
そんなことをイメージさせる映画です。
一人の男の行動を静かに追うドキュメンタリーのようです。

野心はあるけれど閉塞してしまっている状況と、気持ちを、
イブ・モンタンが渋い演技で現します。
彼の妻と、若い革命家の女性とのラブロマンスがありますが、
それも革命という絆があるからです。
特殊な環境に身をおく人達ですが、
題名が示すように一度起きた戦争は終わりがなく、
見えないところで広がることを暗示させます。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年01月16日 07:10

銀幕倶楽部忘年会

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映画を何千本も観ている猛者(大先輩)の方たちとの
忘年会でした。

昭和20年代後半の映画全盛期に、
リアルタイムで映画と過ごした皆様のお話は圧巻です。

その次世代の先輩方も負けず劣らずです。
リアルタイムとまでは行きませんが、
まだまだ映画館が(今のシネコンでとは違う)
残っていた時に映画少年少女時代を過ごし、
そのまま映画とともに生きた方々です。

ここ数年追いつけとばかり、沢山の映画を観ていたので、
会話での相槌くらいはできるものの、
まだまだ皆さんにはかないません。

一番かなわないと感じたのは映画を愛する心だと痛感しました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年12月18日 09:16