銀幕倶楽部の落ちこぼれ
朱花の月 2011日 河瀬直美
説明は無し、
台詞も音楽も極力無し、
酔うほどの映像から、
感じる鑑賞よりも、感覚にひたる映画です。
ワンシーンの印象とその余韻が、肝です。
奈良県飛鳥地方という王道の地で、
その自然、有史以来を想わせる自然を味方に、
河瀬直美監督は、愛すること、
愛したいこと、それと現実の生活で行う行為を
ちっちゃな世界で語ります。
この映画がカンヌで認められることに、
感慨です。
日本を受け入れられた気分と、
日本でこれからもこういう作品が造られることに期待できるからです。
追伸
昨日は「大雪」でした。二十四節気更新しました。
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大雪
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
なつかしの顔 1941日 成瀬巳喜男
とてもあたたかい話です。
乱暴な仮説で貧しいほうが幸せといことを
考える時がありますが、まさにそれを感じます。
戦時中の農村、裕福ではない農村です。
そこには、子供達が元気良く遊び、
大人達も一生懸命に働き、けれど希望はまだ失っていない頃です。
ただ戦争の影があり、
子供の憧れは軍人で、模型の飛行機を欲しがり、
ヒロインの夫は出征中で、そこが物語の中心です。
34分の短編ですが、
当時のことが、大きな視点から家族という(純真な子供の目)
小さな視点までしっかりと描かれています。
そして、映画としても堪能できる出来栄えです。
ほんの小さな話しながらも完成された映画です。
ますます成瀬巳喜男という人物の素晴らしさを
思うばかりでした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
人情紙風船 1937日 山中貞雄
長屋仲間の首吊りの通夜までも(大家にたかり)
宴会にしてしまう、
なかば世の中に流されながら、そして逆らいながらも、
生きることを続ける長屋の連中。
金持ちになり、欲や地位や権力を追う商人と侍。
それに寄生するヤクザ連中。
長屋に居て、どうしても仲間のように生きられない、
粋に生きたい主人公と、浪人侍は、
時に同じ気持ちになり、時にそれぞれが理解できません。
けれど、生き抜くことができないことは同じでした。
粋なままでいたい男、
本物の侍でいたい男と侍でいさせたい妻が、
死を選び終わります。
映画が終わった後は、また、ドンチャン騒ぎの長屋になります。
人間らしい描写が封じ込まれた作品です。
長屋、商人、セットも見事なら、
雨の撮影や光と影の美しさ、そしてカメラの構図も鮮やかです。
演技人も、江戸から抜け出てきたかのような素晴らしさです。
落語の名人の噺とも重なりました。
テンポ、リズム、人間の悲哀や欲望、そして優しさと虚しさ、絶望が、
詰め込まれた。評判どおり、期待以上の作品でした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
フレデリック・パック4作品
短編映画4作品を鑑賞しました。
「木を植えた男」
物語の中の木を植える主人公の姿が、
そのままこの映画を造るフレデリック・パックにつながります。
彼が、丁寧に手間をかけたことが、
この物語に魂が込められました。
そして、今の日本に希望を与えてくれる作品です。
上映もタイムリーだし、観てよかったです。
「大いなる河の流れ」
とても美しい作品でした。
セント・ローレンス河が舞台ですが、
文字通り流れるような映像です。
生態系の破壊、汚染がテーマです。
4作品すべてアニメのタッチが違うのにも驚いたのですが、
この映画がその中で一番新しいということで、
それも伺ええました。
繊細なタッチとアニメではなく、
カメラが動いて行く感じでした。
「クラック!」
一脚のロッキングチェアが主役です。
木から生まれ、作り手の家でボロボロになるまで尽し、
捨てられます。
けれど、新しい舞台が待っていました。
ハッピーエンドなのですが、
それを素直に喜べます。
ロッキングチェアを巡り、
家族が成長する様、
社会が変わる様、
人の営みの時間経過を語り、
そして、ファンタジーへと誘います。
可愛らしい作品でした。
「トゥ・リアン」
地球上で生命が誕生してから、
現代までの進化の映画です。
フレデリック・パックの映画は
どれも強いメッセージが込められていますが、
この作品が一番だと思いました。
人の蒙昧さ=己の愚かさを感じました。
追伸
昨日は「処暑」でした。干し芋産地も残暑ながら秋の気配があります。
二十四節季更新しました。
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【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
ロゼッタ 1999白/仏 リュック・ダルデンヌ
何があっても、誰が何を言おうとも、
この一線だけは引かない。それをすれば全てが壊れるから。
主人公の少女ロゼッタは、貧しく閉塞感の中で自分の力だけで
生きています。
母と友人は一線を超えて生活しているのが許せません。
身近にいるから反面教師で、ロゼッタは頑なな生き方ができます。
不安定なカメラはロゼッタと一緒に日常をただ映すだけ。
彼女の生活を見せられるだけ。
大上段に、社会が、国が、教育が、などと言う事はない。
ただ、ごく普通の生活を勝ち取るために必死な少女が、
日々どうしているかを見せるだけです。
自分にも心の中に燃えている炎があることを、
ロゼッタがお腹が痛くなるのと同じあたりにあることを、
見ていて熱くなりました。
ラストはロゼッタが涙します。
今まで決して人前では見せない涙をみせます。
ロゼッタが幸せななるか不幸になるかはわかりませんが、
分岐点が来たから映画は終わりました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
炎上 1958日 市川昆
ラストの炎上が見事です。
ここに主人公の心が現れています。
そこまで淡々としたシーンばかりでしたから際立ちます。
吃音の主人公は市川雷蔵、彼を代弁するのが、仲代達也。
二人の表現がこの映画の主旨であり、
原作の匂いなのでしょう。
世の中の矛盾に対しての嫌悪感。
だれもが鬱陶しいと思いながら流されて行くことへの、
怒りを感じます。
三島由紀夫が生きていた時代、
まだ近い過去です。
彼はヒーローでもありました。
その時代は近いのに今とは全く違うことに何故かと、
考えが空回りする鑑賞後でした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
あの日、欲望の大地で 2008米 ギジェルモ・アリアガ
自分を許せないまま生き抜く日々。
複雑なヒロインの心情を、
物語としてつながらないカットが表現します。
そしてそれがつながると・・・。
生きていてはいけない自分の原因は母、でも、
自分が罪を犯した。そのうえ、愛してはいけない男も愛してしまった。
母を恨み、けれど許しを得たかった。
映画の造り方も上手いのですが、
罪とその動機。偶然。
平均台のようなすぐに落ちそうな上を誰もが渡っているのが、
生きることだということを強く感じます。
ラストが予定調和的なところをどうとらえるかですが、
ラストに至るまでに、
問題は全てこちらに預けられています。
私の中にもある、自分を許せないことを、
この映画は説いて許しを得る勇気を与えてくれています。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
タロットカード殺人事件 2005英 ウディ・アレン
ウディ・アレンとスカーレット・ヨハンソンの役柄が全てを決めています。
そしてそれが成功です。
二人の会話の映画です。
どちらも映画の主旨どおりの役なのですが、
スカーレット・ヨハンソンを野暮ったくしたのが、素晴らしい。
そして上手く演じる彼女はさすがでした。
ウディ・アレンコメディが好きならお見逃しなくの映画です。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
ノーウェアボーイ 2009英 サム・テイラー=ウッド
彼の影響は世界中で計り知れません。
その生い立ちの映画です。
今となっては彼の真意はわかりません。
身近な語り部から知るか、この映画のようにこちらから
アプローチするしかありません。
ただひとつ、私にとって彼はどういう存在かを確認したい、
そのひとつとしてこの映画は役立つし、
感動もしました。
音楽ファンにはたまらないシーンも数多く、
ジョン・レノン、ビートルズファンでなくとも
注目の映画であることには違いありません。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
ストレンジャー・ザン・パラダイス 1984米/西独 ジム・ジャームッシュ
1984年にハンガリーからアメリカに来た、ヒロイン、
アメリカにいた従兄と叔母さん、3人の考えや行動が冷戦末期を現します。
それらの主題をおいておいて、とても洒落た映画です。
ヒロインのキャラクターが魅力です。
それに呼応するようなカメラと物語、
淡々とほんの少しのドラマがあるだけ。
作中、「晩春」と「東京物語」と「出来ごころ」が台詞に出ます。
確かに小津映画を受け継いでいる雰囲気があります。
たくさんの人に「とても良い映画だからみなよ」と
勧めることはないという良い映画です。
好きと嫌いに分かれるでしょう。
私は、かなり気に入りました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】