銀幕倶楽部の落ちこぼれ
瞳の奥の秘密 2009西/亜 ファン・ホセ・カンパネラ
サスペンスタッチと二組の愛の映画です。
若い妻を殺害された夫はその純粋な愛のために、
25年間を生きます。
その夫婦に係わった男は生涯にわたり自己に影響を受けています。
25年間夫婦の事件とともに生きました。
そして25年後自分の愛を求めはじめました。
サスペンスタッチをスリルとして感じますが、
それよりも二つの愛の表現に人の生き様を感じます。
若い夫婦と主人公はラスト違う道になっていますが、
人を愛することの尊さは観る者に純粋に語ることにかわりはありません。
大事な大事な今を認識させてくれる映画です。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
第九地区 2009米 ニール・ブロムカンプ
人権、貧困、病気、差別、憎悪、戦争、
世界に渦巻いている問題をエイリアンに置き換えています。
エイリアンとしているから冷静にみろことができます。
鑑賞中自分はどっちの立場か、どっちを望むか、
どっちの態度をとるか、頭を巡っていました。
オープニングのリズムが良くて、
参考になります。
もう一度鑑賞するとしたら、
もっと細かく、注意深く、冒頭を見てみたいと思いました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
オーケストラ 2009仏 ラデュ・メヘイレアニュ
クライマックスのヒロインの演奏シーンだけでも鑑賞の価値があります。
表情とバイオリンを弾く姿で、自身の心と、
オーケストラの姿と、ラストに至る経緯のこの映画の芯も
表現します。
基本はコメディですが、
ソビエト時代のソビエトと東欧の芸術家の身の置き方や、
その後の今の彼らが自然と描かれています。
ちょっと辻褄が合わなくなる(個々の考え方しだいですが)
それを気にしなければ、家族や夫婦愛、友情も盛り込まれた作品として
楽しめます。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
キャタピラー 2010日 若松孝二
久蔵は手も足も失い、精神も錯乱して帰還した。
お国のために尽くした軍人として軍神と祀られた。
しかしそれは、
お国のためでなく、私利私欲の結果だった。
太平洋戦争に大義名分は、久蔵が軍神として祀られるのと同じ構図です。
大日本帝国が引き起こした戦争は、私利私欲でしかなかった。
妻(寺島しのぶ)には、軍神久蔵と過ごす日々が待っていました。
戦争で日本が強い時から敗戦まで。
軍神久蔵を時にあがめ、時に憎み、時に自分を恥、
時に・・・。
妻の姿は当時の国民です。
国が総てをあげて行った戦争は、
久蔵と同じ姿に、心になっただけでした。
妻はただただ時が過ぎるのに合わせて必死で生きるしかなかった。
あの戦争を一組の夫婦の姿として映します。
大きなフレームで全体を映すのではなく、その裏側にあるものを、
夫と妻の悲劇の生活になぞらえて、身近に実感できる生活観として、
訴えてくる映画でした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
闇の列車、光の旅 キャリー・ジョ-ジ・フクナガ 2009米・墨
国を捨てなければ生きてゆけない、
アメリカに行けるかも、行ってどうなるかもわからない、
けれどこのままでは生きてゆけない。
中南米の貧困層の現実です。
生きるとしたら人でなしでいることなのだ。
普通ということがありません。
少年は人を愛したために、普通の人間らしさが目覚めた時に
それに気がついた。
でもそれは死を待つだけの人生になった。
国を捨てた少女と少年の逃避行には、
甘いものはない、いつも死が隣にいる。
でも二人にはそれしかない。
生きることの選択がほとんどない世界が、
世界にはまだたくさんあります。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
飢餓海峡 1964日 内田吐夢
犯罪の遠因は貧困を示唆しています。
人が人を信じ合えない時に起こる悲劇が印象的です。
転がりこんだ金で事業が成功した主人公の男、
男から金を貰い極貧から逃れられた女。
男は成功で得た金を社会に還元します。
男は犯罪者であっても極悪ではありません。
女が現れてそれが変わります。
女はただただ感謝したい一心で男に会いますが、
男は女を信じられません、怖くなります。
信じることができないで悲劇になります。
昭和22年から32年の日本の底辺で生きる人たちの社会が、
この物語の背骨にあります。
冒頭の青函連絡船の事故も、放火殺人事件も、です。
左幸子さんはこの映画が代表作でしょう。
一晩だけ、数時間だけ、過した男を神とします。
神との想像での戯れの演技は、恍惚を表現していました。
3時間の大作ですが、
物語も面白く、展開もスムーズですので、
長さを感じることなく楽しめました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
天城越え 1983日 三村晴彦
田中裕子さんがとても綺麗です。
老刑事は40年前以上の自分が初めて手がけた事件が、
解決できなかったことが生涯の壁になりました。
女を犯人と決めつけて、少年のことが眼中にありませんでした。
それに気づき犯人がわかってもどうしても、その動機だけは、
想像すらできませんでした。
松本清張と三村監督が、14歳の少年だったら誰もが持つ、
心の崇高さと凶暴さを見事に描写しています。
女は少年にとって、母、姉、恋人、妻、愛人、そして聖なる存在です。
叔父にとられた本物の母の再来にもなってしまいました。
その大切な女性が軽蔑(と教えられた)に値する男に犯されます。
(とられます)
母を二度失うことに少年は生きていけない衝動にかられました。
老刑事にもあったであろう少年の心は、
どんなことをしても、老刑事は気づくことができませんでした。
その心は私も映画を観たから想い浮かべることができる
純粋な心だったからです。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
ソルト 2010米 フィリップ・ノイス
話の展開にはかなり無理がありますが、
アンジェリーナ・ジョリーをみせることが主なので、
良いとしましょう。
トラの穴を裏切ったタイガーマスクが、
みなしごを救ったのよりもはるかにスケールが大きく、
国家を救う孤独のヒーロー(ヒロイン)です。
でも本人は大きい気持ちではなく、
生い立ちを憎み、
唯一無二の大切な夫を失った代償での行動です。
決してやってはいけないことをやってしまった、
という物語の進み方でした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
ぶっつけ本番 1958日 佐伯幸三
テレビのない時代にあった「ニュース映画」、
そのカメラマンに生涯は、目の前に起きていることを、
どうやって民に伝えるかだけを考えていた人生でした。
自分の興味が主ですが、これを知りたいはずだ。
伝えなければ。一筋でした。
映画ニュースの速報性はテレビへと移っていったことでしょう。
現代も報道は報道側の思惟があります。
映画ニュースはテレビでは伝えられない真実を伝えることに、
作り手は誇りをかけていたのではないでしょうか?
時折挟まれる戦後の日本の映像は、ニュース映画の断片でもあり、
その頃の日本の若さでもありました。
現代の報道は、残念ながら、年老いたものを感じずにはいられませんでした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
にごりえ 1953日 今井正
明治に生きる三人の女性の悲哀の映画3作です。
三人の女は皆、抜け出せない空間に身をおいています。
閉塞感の中で悩み苦しんでいます。
「十三夜」
月夜の明るさは、女の現状の華やかさの部分でしょうか?
何不自由ない生活の中には、
名家の嫁としての待遇ではない扱いの卑劣な夫がいます。
そんな日々実家に帰りますが諭され嫁ぎ先に戻る途中に、
存在を認めてくれる男(幼馴染)と偶然にも出会います。
このひとときは、これからの女の生活に希望になるのでしょうか?
つらい日々に戻る関所のようでもありました。
「大つごもり」
まじめにまじめに、一生懸命に働いて、
主家にも養父母にも尽くしている女が間がさします。
情状酌量もあるし、天が許した過ちなのですが、
どこまでも悔いてしまう女です。
これを乗り越えることができるのか?
「にごりえ」
女は生後に生きる道を選ぶことが許されない最期でした。
傍から見ているといつでも羽ばたけることができる女なのに。
何が女を縛っているのでしょうか?
三人ともに強い女性です。
でも、もろくも崩れそうな所で生きています。
女の繊細な生き様は男の私からみると崇高に感じました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】