銀幕倶楽部の落ちこぼれ
機関車先生 2004日 廣木隆一
トントン拍子に進みすぎることが気になってしまうのは、
私の心が狭い証拠でしょう。
昭和30年代の世界が、一面からだけですが、
しっかりと閉じ込められています。
瀬戸内海での開発の情景とは違う世界が、
鮮やかな風景とともにカットされているように思いました。
生きているのは種を存続するためです。
ただ人間はそこに人としての意義も求めます。
私たちは今追われてしまって、ただ生きることが大変、
と自分に言い聞かせているような感じです。
教育の大切さも感じる映画でした。
この手の映画ではどうしても「二十四の瞳」が引き合いになります。
あの傑作映画を意識していないでしょうけれど、
亡霊のような存在なのでしょう。
観る方も別の映画でありながら意識しています。
それはさておき良くできている映画でした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
ロレンツォのオイル 1992米 ジョージ・ミラー
子を持つ同じ親として、惜しみない拍手を主人公夫妻に贈ります。
何にも変えられない、何にも耐えられる、親が子を想う愛と、
人が持つ力の凄さも、希望も、そして怠惰な人の性も映しています。
注目は、社会は何のために存在しているかです。
人が生きてゆくために必要とされた社会は、高度に複雑化しています。
高度ということは褒め言葉ではなく、
応用問題になっているということではないか?
複雑になりすぎたことを言い訳に、
自分の立場を守ることに正当性を見出している。
けれど裸になれば、それらはちゃんちゃらおかしく、
シンプルな法則だけで良いことが解かります。
それを垣間見れれば生きる実感が持てるような気がします。
夫妻の執念はそんなどろどろしたものさえ炙り出しました。
でもそんなことは二人にはどうでも良いことです。
私もこの家族(一族)が安堵して暮らせる日々を祈っています。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
クロッシング 2008韓 キム・テギュン
病気の妻を救えず、かけがえのない息子を救うことがかなわなかった父は、
一生自責から免れず、なぜ自分だけ生きているのかを背負って行くでしょう。
けれどこの映画を観たものは、世界(北朝鮮)がこんな状況だから、
ということを世界の一人として自分に問います。
世界が人々が安心して暮らせるようになって欲しい。
それを願わずにはいられませんでした。
推測ですが、北朝鮮の内情がとてもリアルに描かれていたと思います。
この映画を造る際に、かなり検討し、丁寧に再現されたのでしょう。
そこをとっても貴重な作品です。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
埋れた青春 54仏 ジュリアン・デュヴィヴィエ
男女の四角関係で起きた殺人事件が舞台ですが、
18年前の回想として描きます。
それを若き主人公が追うことで、
フランスの司法と社会のことなかれ主義を、
身近な家庭や学校でも反映させてあぶりだしています。
重層的な構成になっています。
美しい妹役のエレオノラ・ロッシ・ドラゴに眼が行きがちですが、
他の俳優陣も持ち味を発揮しています。
若き主人公の叫びに共感しながらも、
都合が悪いことをこの場合は恩赦という形で収める世の中、
人の弱さにつけこむ人の残酷さに嫌悪を感じながらも、
その一員であることも認識しないではいられませんでした。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
逢びき 1945英 デビッド・リーン
恋に落ちた二人、特に女性の気持ちが、
86分に見事にまとめられています。
上品な作品です。
一見は不倫ですが、不倫という状況設定であって、
人の心のありようや、生きていく中のはかなさを、
また、おもいのままいかない社会を描写するために、
設定された不倫です。
だから題名は、邦題の「逢びき」よりも原題の
「Brief Encounter」の方がしっくりきます。
別れを邪魔するおせっかいおばさんの演出も良いし、
ラストの夫の憎い台詞と仕草は、
なかなかできないけれど、こうありたい、
妻を本当に愛している姿でした。
観ているときよりも見終って少し時間が経つと、
良い映画だったと感じる作品です。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
腰抜け二挺拳銃 1948米 ノーマン・Z・アクロード
キートンやチャップリンの孤高の存在がいての喜劇
とは違う、チームでつくった喜劇という感じです。
主役ボブ・ホープに加えて、ジェーン・ラッセルという色気も加わっています。
また、キートンらの精神は引き継がれていますし、
名探偵コナンをはじめ多くの元ネタになっています。
古い映画フリークを自称しますが、好きだからだけでなく
新鮮さや意気込みや感動を、古い映画から受けるのは
私だけではないのではないでしょうか?
余談ですが、「腰抜け二刀流 1950日 並木鏡太郎」
というこの映画の焼き直しが昨日まで神保町でやっていました。
行きたかったなあ。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
木曜組曲 2001日 篠原哲雄
密室に近いミステリー劇で、
その謎とスリルを味わう映画なのですが、
いまいち緊張感と、?マークが結構多い進行が気になりました。
が、
この映画は女優陣を楽しむ映画でしょうから、
そのへんは多めにみて楽しめば良いのでしょう。
しかし、このころの映画をあまり観たことがなく、
女優さんが誰かがわからず、浅丘ルリ子さん以外、
見たことがあるようなないような。
映画は現代劇の場合、その時代の空気を伝えます。
2000年初頭の空気はやっぱり今と違うし、
よく観る古い映画の魅力も改めて感じることもできました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
レ・ミゼラブル 1957仏伊 ジャン・ポール・ル・シャノワ
1800年代のフランスを映像で体感できる。
映画ならではです。
この映画は、読み手に任せる本と同じような、
映画になっているところです。
各登場人物の人となりや、時代背景、
その時代の人々のあり様に、
造り手の押し付けを感じることがあまりありませんでした。
3時間の長編ですが、
常に自分で思考していました。
だからきっと1800年代のフランスを体感した感覚になったのでしょう。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
赤い橋の下のぬるい水 2001日 今村昌平
中年男のファンタジーアンドコメディなので、
楽しく笑いながらの鑑賞が正当なのでしょうけれど、
笑うことができないでみおわりました。
「豚と軍艦」のころから、
この映画のころまでの日本をちりばめて、
水をモチーフにして物語ができています。
主人公を自分と重ねると、コメディでなくなってしまいます。
ホームレス、さえないビジネスマン、失業に失業保険、
田舎の漁師、都会と田舎の生活、
生活のためのマラソン留学のアフリカ男と町興し、
離婚をせまる妻とそれを支持する妻の両親、
住宅の売却、公害の後の神通川と神岡カンデ
そして性。
「水」の流れや形、勢いや静、または汽水を通して、
今村監督は何を言いたかったのか。
もしかしたら難しく考えずに、
私が感じたように、心のちょっと遠い所が揺れれば
それで良かったのかも、とも思いました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】
白痴 1951日 黒澤明
ドフトエスキーの原作を知っている方には
怒られるかもしれませんが、
知らない私でも、そのテイストが充分に伝わってきます。
ヨーロッパ的で文学的な映画になっています。
黒澤映画での原節子さんは新鮮で、鮮烈な彼女がいました。
久我美子さんも持ち味が出ていて、ファンでもあるし、
二人の対決は息を呑むばかりでした。
黒澤映画の雰囲気=常連の役者がいるし=らしさもありましたが、
テイストが他の黒澤映画とは違ったのは、
やはり原作に忠実だったからでしょう。
雪の北海道はこの物語にピッタリで、
全体が醸す世界に“人とは”を考えることに没頭しました。
【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】