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ぼくたちの家族 2013日 石井裕也
実は、崩壊していた家族だったというテーマの映画、
または壊れた家族の再生物語という映画、
一見するとその部類に分けられてしまいそうでしが、
今までのそれらとは一線を画す映画です。
崩壊していたと家族が皆決めていたけれど、実は壊れてはいなかった。
それを確認する物語です。
物忘れを気にする妻の玲子が病院に行くと、脳腫瘍で余命わずかと宣告されます。
家族は、会社経営はしているが稼ぎが悪い夫(若菜克明)、家もクルマも分不相応で、しかも何も決められないダメ親父でもあります。
長男(浩介)は結婚していて妻(みゆき)が妊娠したばかり、みゆきは若菜家が特に義父が金にだらしなことに不満です。
次男(俊平)は留年している大学生、お調子者です。玲子は可愛くて仕方ありません。その母に金の無心をしてその時を楽しむタイプです。
入院しても克明は浩介を頼るばかり、これからどうして行くのかも、治療費もです。
浩介は中学の時に引きこもりになっていたことを悔いています。そして、その時から家族は壊れていったことを俊平から言われてしまいます。
今も浩介はそれを引きずっています。また長男だからという観念も強いので、今回も何とか家を(経済的にも精神的にも)持ちこたえようと必死です。
入院間もなく俊平は家の内情を知ります。
克明には家のローンと会社の負債合わせて6500万の借金があること、玲子は10社のサラ金から300万の借金をしていたこと、そして、克明はそれを止めることすら出来なかったこと、そしてこの夫婦はそんな状況でも贅沢をやめようとしていませんでした。
だから、浩介はみゆき(生まれてくる赤ん坊を若菜家の騒動に巻き込んで不幸にしたくない)との板ばさみになります。
俊平は克明に自己破産を求めますが、自己破産すると、保障人の浩介が1200万の負債を抱えるという仕組みになっていることを説明され、愕然となります。
このまま手を拱いていれば、玲子は死を待つだけ、そして家族は自分達の生き様そのものを否定して終わることは3人とも勘付いています。
入院した地方の病院では治療の術がないと言われます。
追い込まれた浩介は抵抗することを決めます。
玲子の治療が出来る病院探しです。俊平も手伝います。
絶望しかない所から少しずつ光明が芽生えます。
そして、物語は。
4人とも逃避していました。
克明は金が回らないことへの直面にです。
玲子も同じで、サラ金からの借金で、ささやかな夢を見ることで逃避していました。もちろん、俊平に小遣いを与えることを至福としていました。
俊平はお気楽極楽です。
そして浩介も、本当のことを親にもみゆきにも上司にも、言いたくないことは言わないでいました。確かに真面目に、みゆきにも生まれてくる子供にも何不自由ない生活をさせるだけのことをしていましたが、肝心なこと(このままではいつか実家に夫婦の生活が脅かされること)から逃げていたのです。(仕方ないと言えることですが)
このまま玲子を失うと、克明はダメ親父のダメ押しになり、浩介は自己を責めることになり、俊平は本当の風来坊です。そして若菜家と克明の会社、浩介の家庭がなくなります。もう待ったなしの状況が訪れたのです。
各々がそんな状況ですから、俊平の「とっくに家族は壊れていた」という言葉は身に染みていたことです。でも事を起こすと違う展開になります。
浩介は吹っ切れたかのように、弱さを俊平に曝け出します。そして野望を持ちます。
俊平も玲子のために、克明のために、浩介のために、動きはじめます。
良い方向へ流れ始めます。もちろん今までが今まででしたから、大きな痛みは伴いますが。
この家族は壊れてはいなかったと私には写りました。
克明は逃げる男で、父親(夫)失格です。特に経済的に。
でもそんな克明でも、玲子にも、二人の息子にも愛されていたのです。
玲子が重病というこれ以上ない大きな事件で、玲子が求めていた「家族仲良く」は証明されました。だから家族再生の物語ではありません。
現代人は賢く、そして淡白になっているような気がしました。
少し上手くいかないと、とっくに家族は崩壊している。と決め付けます。
本当にそうでしょうか。
そして何でもそういう決め付けで解決して終わりにしてしまう、それは生きることに淡白になっていることではないのかと、この映画で感じました。
子供に迷惑掛けても親は親です。その逆ももちろん。
たかだか自己破産で家族が崩壊なんてことはない。
そう思い込もうとするだけ。生きること自体から逃げる行為。
そんなことを痛感する映画でした。