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濡れた二人 1968日 増村保造
この映画の結末は、ファーストシーンで既に決まっていました。
人は答えが既に出ているけれど、それを確かめるために生きているということが、
ままあるものです。
万里子(若尾文子)と哲也(高橋悦史)は結婚して6年経ちますが、まだ子供はいません。
そして、毎年のように旅行の計画を立てますが、哲也が仕事で多忙(東京でテレビ局に勤めている)なために、いつも没になっていました。万里子も仕事を持った自立した女性で、毎年哲也が旅行に行けるという日程で計画を立てるのですが、いつもドタキャンです。
この日もまた同じことが起きました。
けれど今回は様子が違います。万里子は一人で旅に出たのです。
流石にいつもと違う万里子の様子を気遣った哲也は、万里子の滞在先に一日遅れで追いつくという電報を入れます。
万里子はどうせ来ないと思いつつも、仄かな期待を抱いて駅に出迎えにいきます。
けれど、約束の時間に哲也は現れませんでした。
旅行先は万里子の田舎の南伊豆の漁村です。かつて万里子の親が世話をした女中の家で万里子は過していました。
旅先で万里子は、彼女よりも7歳若い哲也とは正反対な野生的な繁男という男に見初められます。
若くて粋がっているだけの繁男の言うことなんて真に受けなかった万里子ですが、強引な繁男、“欲しいものは欲しいという言葉と態度”の繁男に惹かれていきます。
自分にない素直さや、いつも堂々巡りばかりの考えの自分とかけ離れている繁男の生き様に惹かれたのです。
そして最後の最後まで約束を反故にされた傷心から、船の上で万里子と繁男は肉体関係を持ってしまいます。万里子にとって、“自分は変わる”という儀式のようでした。
しかし、滞在先に戻ると、なんと一日遅れで哲也が待っていました。
その夜、哲也にすべてを打ち明ける万里子。哲也もショックではありましたが、万里子を許します。万里子は罪悪感と哲也の愛を受けて泣き崩れます。
翌朝、二人で東京に戻るためにバス停に居ると、そこに繁男が現れます。
バイクで荒々しく愛の表現をします。
揺れる万里子とそれを止める哲也ですが、万里子は繁男を選びました。
その夜、繁男を待つ万里子の下には繁男は現れませんでした。
そして、離縁状が万里子に届きます。
表面上は繁男を好きになったから万里子は不倫したのですが、
繁男が居なかったら、不倫はしなくても、違うきっかけで哲也とは別れたはずです。
何があっても、ひとりで旅に出た時点でこの結末は変えられなかったのです。
最後の猶予は、哲也が一日遅れで追いつくかで、これなら、もしかしたら別れはなかったかもしれませんが、それでも結末を遅らせるだけだったかもしれない位に、この結末は決定でした。
万里子は、今までの自分の肯定を覆す離婚に逡巡していただけだったのです。
もちろん経済的に不足が出ること、仕事を含めた人間関係で離婚を踏みとどまろうとも考ていたでしょうし、だいたいが、離婚そのものが多大なエネルギーが掛かるので、踏み出せなかっただけなのです。
人は惰性という重力がいつも付いて回ります。
私は万里子は今後今以上に幸せになるかはわかりませんが、
不幸になっても後悔はしないように思えました。