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【SPAC演劇】ドン・キホーテ 原田一樹 演出
夢かなわず、ドン・キホーテは病に伏せ、終幕になるこの演劇を観て、
世の中は人一人が生きる時間では、その人が望む形には変わらないのだとも、
でも確実に変化は起きているとも思いました。
そしてこの演劇では、そもそも現実とは何か?と問いかけてきます。
風車を怪物と決めつけ突進するドン・キホーテ、彼は世のため人のために真剣に行動します。ただ、的外れな独りよがりです。それを諌める回りは良い迷惑です。
ではドン・キホーテだけが独りよがりなのか?とは言えないと、映りました。
実は、現実を見ているドン・キホーテの従者のサンチョも、キホーテを心から心配する姪のアントニアも、アントニアに頼まれてキホーテを連れ戻そうとする司祭と床屋も、意識してはいないでしょうけれど、その行動は、自分自身のやりたいこと(都合)でしかありません。
キホーテの目には想い姫として映るアルドンサなどは、その最たるもので、彼女はキホーテから讃えられる存在ですが、悪しき生き方を一向に変えようとはしません。
頑固で独りよがりはキホーテだけではないのです。
そして誰もが望む生き方や、望む環境があり、それとの違いで悩んだり苦しんだりします。
でも世の中はなかなか変わることはないのが現実です。
(だから巷では自分が変わればと言います)
何年も前の自分の写真を見ると、今ととても違うという体験は誰もあるはずです。
日々目に見えない変化でもそれが重なると大きく変わっていて、振り返ると時代が流れていることを確認できます。
だから変化しているけれど、問題はそれが、自分や社会が望む形なのかということです。
世の中そんなに上手くはいきません。
ドン・キホーテが玉砕していく姿が重なります。
また、この演劇では最後に操り人形のお芝居がど真ん中で映りました。(舞台上の真ん中ではなく、空間上の真ん中)
なにか、キホーテをはじめ、皆が、結局は大いなる力で操られていることを表現しているようです。
それを思うと、現実を見りことができないキホーテも、現実を捉えている他の人物も、
本当の現実なんて見ていないし、捉えてはいない、どちらも五十歩百歩といわんばかりです。
人が生きる辛さを感じるシーンでした。
でも人間はキホーテのように、風車に向っていく存在なのです。
だからやっぱり人間賛歌であることをこの演劇は訴えているのだと私は受け止めました。