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【SPAC演劇】青森県のせむし男 寺山修司作 渡辺敬彦演出
大正家の女中マツが恨みを晴らす、女の情念の話なので、暗くなりがちですが、敢えて部分的にコミカルな演出をしているように思いました。
私は寺山修司氏の「天井桟敷」の演劇はみたことはありませんが、この演劇も寺山氏への敬意が込められていることでしょう。
そして、演劇はそんなにかしこまらなくても、気軽にどうぞという雰囲気がありました。
会場に入るとお囃子のような音楽が聞こえてきます。
そして演出家の渡辺敬彦さんの挨拶や終演後の俳優紹介でも、俳優の皆さんのお見送りでも、それを感じました。
中身はコミカルな部分があるとはいえ、アングラ色満載でした。
女中であるが故に、若旦那に身籠らされてしまうマツ。世間体から入籍はされますが、女中扱いが30年続きます。
そして肝心の生まれてきた息子は、醜いせむし男で、育てることすら許されなかった運命だったのです。
そして、夫は早くに亡くなり、想像ですが、恨みつらみを一度も夫に吐露することが出来なかったのでしょう。そのアンフィニッシュな気持ちがマツの情念、世間に対しての恨みの原動力で、マツの復讐劇です。
おもいっきり日本っぽい演劇です。
太鼓と三味線、浪曲師のような語り部が話を進めます。
神社仏閣を思わせるセット、周りも竹やぶで、全体的に暗い舞台には時に満月が浮かびます。
時代も大正時代からはじまります。
マツの情念の凄さがわかるのは終盤で、外堀を埋めるように劇は始まり進みます。
大正家の二人の侍従が語り部のアプローチを受けて、その詳細を伝えます、時にコミカルに。
もう一人の侍従は大正家と話を締めるかのように、プロットにけじめをつけます。
そして三味線とともに語り部が話を進めるのですが、この語り部も物語の重要人物で、語り部から物語の人物へと移行します。
そして、死んだはずのマツの息子のせむし男が現れます。
だから段々と散乱していた、登場人物と、物語に無関係な人物が、収斂されて核心へと迫り、マツの想いをこちらに想像させる展開になります。
マツが主人公ですが、せむし男も同様です。
マツの心情は露呈されますが、せむし男の心情は匂わせるだけです。
そしてマツの心が明らかになると、せむし男がどうしてここにきたか、どうやって生きてきたかを注視します。
せむし男は、マツが産んだ息子かは明らかにされません。
私はどちらでもマツは同じ生き方をしたと思うからどちらでも良いのだと解釈しました。
どちらでもマツは非情な情念を持つ女になったのだと。
そして明らかに健気なせむし男は何故存在したのか?
これも非情の象徴だと思いました。賽が投げられた後では世界は変えられないと、ということです。
この演劇は、登場人物すべてが戸籍を失うことから始まります。
誰が誰とは特定できないということです。でも実社会では相互の関係で誰が誰かを認め合います。
これは社会の二面性です。
誰が誰とは確定できないけれど、でも“あいつに違いない”という存在は、人の悪意に対してはこれ以上ない存在です。
小さな悪意を産み、満たすのです。
その標的がせむし男だった。
それは劇中のカゴメの歌であきらかです。
そうすると想像以上に非情な物語です。
せむし男は、ただただ地味に生きたい。でも、世間とは違う“みてくれ”から世間に引っ張りだされます。
世間に抗することが出来なかったとともに、世間なしでは生きられないのです。
マツはそんな世間に復讐をする立場になりました。
せむし男はそんな世間から逃れられないで、巻き込まれました。
でも結果どちらも不幸にしかみえませんでした。
spacの若手俳優が中心になって立ち上げたのが本作というのを観劇前に知りました。
その俳優達はやはり芸達者で、細部も丁寧に造られていました。
勢いがある演劇と感じました。