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【SPAC演劇】ふたりの女 演出:宮城聰
舞台は伊豆の精神病棟。登場人物は皆、危ない人達、頭の中はあっちの世界にあってやることは支離滅裂。でも中でもある程度まともなのが、六条という美女で、六条は医者の光一を愛します。でも光一には子供を身篭っている許婚のアオイがいます。
登場人物を観ていると私達との境界線を行ったり来たりしているように見えます。私自身は正常だという認識はありますが、それは危ういことで、流石に精神病棟の患者までとはいかないまでも、でも、彼等が一瞬まともになる時、でもあっちの思考になる時、同じようなことを自分自身もやっているのではないかと実感したりします。
結局は程度問題で、私はいつも完全に正常であるわけはありません。
そんな自分にもある危うさが舞台で喜劇として表現されながら、光一とアオイと六条の三角関係の顛末です。
六条は退院します。アオイは精神を病んでいるわけではありませんが、六条とアオイは同じ境界線をいったり来たりしているように見えます。それに振り回されるのが光一です。
六条の横恋慕でアオイが嫉妬に狂い、光一はそれに悩むという展開です。
私は、アオイと六条は二人で一人ではないかと感じました。
最初は、光一が有能で格好良いものですから、アオイは光一が他の女から言い寄られてその気になることが心配で心配でならなくて、光一が浮気しているという妄想に駆られてしまい、自殺した。六条はアオイが造りだした幻影かと解釈しました。
でももうひとつ解釈しました。
六条は光一が造りだした幻影で、光一はアオイが亡くなったことに責任を感じていて、六条を存在させなければ、光一は自分を救う術がなかったということです。
また自分自身への説得力は薄いですが、六条は存在していて、アオイは光一が造りだした幻影とも取れます。
六条は確かに光一を愛していて、彼の心を得ようとするのですが、そのやり口がかなりエスカレートしています、光一はそんな自分を愛する六条を気にかけながらも、理想のアオイを造り、添い遂げたかったとも思えます。
また、やはり二人とも存在していたとも解釈できます。
要は、光一はじめ皆、不足を埋めようとしているというのがこの劇ではないかと強く感じました。
精神病棟内は不条理がまかり通っていますが、これは現実社会を映していて、その不条理が故に、不足が常にあるのが世の中で、それをどう補おうかと足掻くのがこの「ふたりの女」で繰り広げられていることです。
時に狂ったようにもなりながら、幻影を求めるのは光一だけではありません。
一見喜劇の装いでハチャメチャな冒頭はそれをプロローグでもう示していたように思えます。
そして、光一とアオイと六条の物語を進めながら、要所でのサブストーリーで、失ったモノを得ようとする件があります。でも適わない。
ここが味噌で、結局ここに出てきた人達は全員、喪失を埋められないのです。
真実を語っています。
これがアングラの一つのテーマなのかとも思いました。
そしてその表現方法はあくまで造り手が突っ走っているとう感じ。そして昭和の香りが強くしました。