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【SPAC演劇】メディアともう一人のわたし 演出:イム・ヒョンテク
ギリシャ悲劇「王女メディア」のメディアは元夫イアソンへの復讐のために我が子二人を自ら手がけてしまいます。
それだけ夫憎し、そして、メディアは残忍だったということは誰でも解るけれど、解ると納得は雲泥の差です。どんなにかイアソンへのあてつけかの想像ができないのに言い張ることではないけれど、およそ私にはどんなことがあっても我が子を手がけることはできません。
でもこの悲劇も多くの芸術家がその芸術家の解釈で演出しています。そして、この作品もその一つですが、少なくとも演出家のイム・ヒョンテクさんは、私と同様に我が子を手がけるメディアの心を読めなかったのでしょう。それを逆手にとっての“イム・ヒョンテク版メディア”でした。
メディアを二人登場させるのがこの作品です。
原作通りの残忍で我が子をも手がけるメディアと、どうしてそんなことができるのか、当然ながらメディアにも葛藤があるはずという、我々に近いメディアです。
二人の女優が折り重なる用にメディアの心情を観客に伝えます。
その伝え方は、メディア二人だけでなく、イアソンも、他の登場人物も、その身体と、舞台袖両側に配置されている楽曲と歌で主に表現されます。
それは、観客の心に訴えるという言葉通りで、数多の台詞では表現できない表現方法です。
素晴らしい楽曲と歌声、そして登場人物に合わせた声色、時にはオーバーアクトの演技もありますが、それも殺し合いの運命にある人々のしかも限られた時間で生きる人の生き様として観ると、その異世界を覗いている感覚になります。
そしてなんといっても二人のメディアは、とても精力的であり、母性の塊であり、ですが、実は私には窺いしれない残虐性があるということで、そんな二面性(多重人格)があるようには見えないけれど、しかし、物語の展開は悲劇を正当化するがごとくに進みます。
我が子を手がけるというあっては行けない行為に悩む姿がもちろんありますし、オーバーアクトはそれを可能にするかのようにも見えました。
韓国の古典芸能の楽曲と歌の要素と、現代の音楽の要素を合わせた音響を受けての身体表現=踊りは狂おしくも見えます。
この劇自体がメディアの人格を訴えているのでしょう。
頭にではなく、どこまでも感情に突き刺さるようなそんな劇でした。