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【SPAC演劇】マダム・ボルジア 演出:宮城聰


spacの新作「マダム・ボルジア」の原作はヴィクトル・ユゴー「ルクレツィア・ボルジア」で、ボルジア家が隆盛だった頃、スペインが世界の覇者として馳せてた時代の話で、時間軸はそのままに、日本の戦国時代に空間を移しています。
ルクレツィアの父は関白、兄チェーザレも4番目の夫アルフォンゾの将軍という設定です。
ルクレツィアが愛してやまないジェンナロは傭兵の勇敢な隊長という設定は原作と同じ、そして、彼と共に戦場を駆け抜けてきた、一緒に死を共にすることを誓い合った無二の親友達は、日本各地の領主の若頭という設定です。
その日本各地から集まってきたという設定を活かしています。
この劇は二部構成で、ルクレツィアにとってビハインドの水の都(ここでルクレツィアは辱められ、後半の復讐に繋がります)から、ルクレツィアのホーム(夫アルフォンゾの領地)の高峰の都に、舞台自体も観客も移動するのですが、観客は五つの国の若頭に先導されて移動します。
その若頭の領地は、それぞれの俳優の出身地で、俳優達は方言を使います。また、宴の場面が一部でも二部でもあるのですが、そこでもそれを匂わせます。特に一人の若頭は地元静岡の遠江出身で、静岡弁が飛び交います。
この「マダム・ボルジア」はボルジア家のダークないわれが下敷きになっているので、圧制、残虐、毒殺、近親相姦等がボルジア家にはあり、とてもきな臭い上で話は進むのですが祭りの場面では明るく、でも人が集まらない場面では本音が出る演出をしています。
明るい宴とは裏腹に、ルクレツィアが部下のグベッタと二人の時、アルフォンゾと部下の捨助と二人の時の、彼らのダークな企てをする場面の暗黒との対比が強調されます。
また、ルクレツィアとアルフォンゾの二人の腹の探り合いは二人の愛は程遠く、政略結婚であることが案じられます。
それとは全く違う雰囲気がルクレツィアとジェンナロの二入の場面で、ルクレツィアの彼に対してだけ注ぐ純粋の愛は、政治や経済や面子を抜きにしたもの、でも、ジェンナロはその勇ましさもあり、ボルジア家の暗黒に抵抗することから、ルクレツィアの想いは届かないというルクレツィアのとても個人的ないき詰まりが描かれます。

人は役割をいくつも担いますが、ルクレツィアもそれに翻弄されてしまうのがこの劇です。

ジェンナロに母であることを名乗れないルクレツィア、名乗ることはジェンナロを精神的にも肉体的にも奈落に落すことになるからですが、その名乗れない歩をしてしまったルクレツィアで、彼女の生涯はとても儚いです。
自業自得でもありますが、一人の子を想う母としては侘しい最期でした。

【いもたつLife】

日時: 2019年05月27日 09:07