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【SPAC演劇】マダム・ボルジア 演出:宮城聰
spacの新作「マダム・ボルジア」は稀代の悪女ルクレツィア・ボルジアが自分が犯してきた数々の大罪から、実の息子ジェンアロに母親を名乗れず、しかもジェンナロを傷つけてしまっていることに苦悩する物語です。
多くの暗殺に絡み、政略結婚で闇の政治にも関わり、ボルジア家の一員らしく残虐でもあったらしいのですが、この「マダム・ボルジア」のルクレツィアを演じている女優の美加理は、絶世の美女で高貴であったルクレツィアらしさは十二分ですが、残酷な悪女のイメージはありません。
駿府城公園に特設された野外会場に響く透き通る声やその優雅な立ち居振る舞いで、ジェンナロを愛する姿はただ一人の息子を想う母であり、恋人を慕う一人の女です。
多分そういった面は、歴史を踏まえた上でのこの戯曲のルクレツィアらしいのは間違いないですが、それでも美加理はあまりにも一途で到底稀代の悪女には重なりません。
この「マダム・ボルジア」は当然それを踏まえて造られています。
それは何故か?
「マダム・ボルジア」は3回観劇しました。その3回目はそれを考えました。
ひとつ思いついたことがあります。それは人は不可解ということです。
こんな高貴な方が、ボルジア家のためとはいえ、いとも簡単に多くの人を毒殺するわけがない、ということはない。ということです。
そして、多くの者たちから憎まれる女であっても、愛する者を自分の命よりも大事に想うのは当然であるということです。
当たり前の結論になってしまいますが、今の自分は自分が決めた自分である部分はとても少なく、でもそれを踏まえて生きていることを自覚しなければならない(大変ですが)ということです。
環境で造られた要素は大きく、立場と役割があります。今の造られた自分は理不尽であったと嘆くこともあるでしょう。でもそれをひっくるめて自分であり、ではどう生きるかでしょ。と、説いているのが「マダム・ボルジア」で、だからルクレツィアを美加里が演じたのではないかと推測しました。