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【spac演劇】夜叉ヶ池 宮城總 演出
晃と百合のちょっと暗く、でも仲睦まじい舞台から始まり、学円が加わりプロローグとなります。このパートでは問題提起や登場人物の人となりの紹介で、そして大事なこととして雰囲気はあくまで理性的です。この後、妖怪たちのパート、村人が出てきてのパートが感情的なのと対照的です。
その妖怪パートと村人パートは同じ感情的な括りではあれど、陽と醜という造りです。
人は良い悪いではなく、明確な理由はないけれど人として、これをやっていた方が良いたとえ面倒でも、ということが、生きている中であります。それが直接生活を豊かなモノにするわけではないけれどということです。
晃が日に三度の鐘撞を欠かさないというのもそれです。
それに対して、人としてやってはいけないことは人には解っています。けれどそれを覆すことは人には良くあります。村の日照りを収めるための雨ごいの生贄として百合を差し出すことを決めた村人たちは、それは仕方がないことということを正当化の御旗にして、自分の物理的な欲望と、建前として出せない自分の嫌らしい欲望と、他人を貶めることによって相対的に自分で自分を優位にさせたい、ここぞとばかりにそれらの心の奥底から発散させたい醜さを正義だと主張して百合に強要します。
その醜に対して妖怪たちのパートは、白雪姫の欲望=「千蛇ヶ池の若君」の下に行きたいは村人たちの欲とは違い、素直であからさまです。でもそれをしてしまうと大洪水になることから他の妖怪たちに思いとどまるように諭されます。しぶしぶながら受け入れる白雪姫です。
その対比は人と妖怪のどちらが人らしいかと皮肉られています。
そして演出もそれそのものです。
妖怪パートの明るい音楽と衣裳、台詞、どれをとっても陽気です。
村人パートはモノクロが基調の衣装、暴力的で排他的な音楽と台詞、繰り返しますが自らを正義と叫び正当化する姿勢は、これだけはやってはいけない、美しさがない姿です。
追い込められる晃と百合がとった行動は、心中です。
今回の観劇で、曽根崎心中や心中天網島の当人の気持ちと晃と百合の気持ちが重なりました。
あの世があるかどうかは解りません。
例えなくてもあるとして、あの世で添い遂げようとするしか、それ以外はないという八方塞がりに置きこまれたのが晃と百合です。
社会とは時としてそういう個人攻撃をしてしまうのです。それが人間社会の一面です。
ごくごく普通の人が加害者になりうる危うさがあります。怖いです。
学円は一観客としてこの演劇に参加しています。
学円は祈りを捧げて退場します。私も人が人でなくなることがない時代でいて欲しいと祈りました。
人は追い込まれたら、妖怪よりも怖いモノに変化してしまうからです。