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ドライブ・マイ・カー 2021日 濱口竜介
主人公 家福(西島秀俊)の再生物語という物語の王道ですが、とても凝った、そして気が利いた演出です。
19年前に幼い娘を喪った家福夫婦、それを乗り越えて妻の音(霧島れいか)とは理想的な、愛し合う二人のように一見は見えます。いや一見ではなく本当に二人は各々を必要としていて、また、最愛で、不可欠なのは確かですが、ひとつだけ、何故か音は複数の男性と関係を持つことをします。そしてそれを知っている家福は、音を失うことが怖いのと、それでも愛している自分を確認するために、このことは自分の中で封印しています。
物語は音の急死から動き出します。
喪失感を持ちながらも演出家としての活動を続ける家福に広島での演劇祭の演目「ワーニャ伯父さん」の創作で出会ったスタッフと役者たちとのやりとりで変化が起こります。
劇中劇がキーになっています。序盤は「ゴドーを待ちながら」、そして「ワーニャ伯父さん」、もうひとつは脚本家の音が創作した物語です。
その台詞や稽古の動き、そしてラストの上演で、家福の心情とこの作品の主旨が語られます。それとは対照的に家福の他人とのやり取りには彼の本音はありません。
人は社会で生きていくことの前提として、本音ではないやりとりをするのは当たり前ですが、それに乗っ取られてしまっている象徴が家福で、音の浮気を赦す自分は本音であると言い効かせていたことに気付きます。
それは演劇祭で雇わなければならなかった、家福夫婦の早逝した今生きていれば同い年の23歳のドライバーみさき(三浦透子)に心を開いたからです。
このみさきとの関係、お互いに相手の心を知ろうとすることが終盤に怒涛となって家福を変えていきます。
音のふき込んだカセットテープ(ワーニャ伯父さんの台詞)を毎日愛車のサーブで聞いて、稽古して、自分を確認する家福はそのサーブの中の世界に他人のみさきを入れたことが転機となるという演出を筆頭に、前述した劇中劇と家福の日常で語らせるという方法が、何気ない物語の進行とどんどんリンクしていきます。
また、「ワーニャ伯父さん」の演劇は多言語プラス手話を使うという上演方法を取るという形にして、この世界の複雑さや不条理、人が持つ多面性を語ります。
またサーブを東京(首都圏)、広島市内と瀬戸内海、また北海道(みさきの実家)にまで走らせるのも日常と非日常を上手く語っています。
事程左様に他にも含めて、とても凝った演出で、しかもストレスがないので、長尺の映画ですが、引き込まれっぱなしです。
人の複雑さと多様な社会で生きざる得ない今、そして愛する人を必要とする普遍さの重要さ、それらが適うことの難しさを問題提起として、ある解決を示している、そんな映画のように感じました。
それを非常に巧くみせています。