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わらの男 1957伊 ピエトロ・ジェルミ
ごく普通の家庭がある男と、家は貧しいけれども婚約者もいる女、
二人は愛し合います。不倫ですね。
心が行きたい方へ進み、いずれ別れるのをわかりながらも、
二人が着いた場所には、空虚や寂しさがありました。
今までと、今の自分にあった空虚やむなしさを補うためだったのに、
それを確かめるかのようになってしまいました。
という感じを感じました。
女は求めてはいけないけれど、どうすることもできなく・・・。
男は良心が耐えられなくなると、楽になりたく妻を頼ります。
(結婚した女は妻にも母にもなります)
男の弱さや友情、家庭愛を「あなたはどうとらえますか」と
進行とともに少しずつ心に訴えてくる映画でした。
(小津安二郎を連想しました)
アリゲニー高原の暴動 1939米 ウィリアム・A・サイター
アメリカ独立前、開拓時代の西部劇です。
「駅馬車」のジョン・ウェインとクレア・トレバーが主演です。
ジョン・ウェイン側、軍隊側(悪役の商人が絡む)、インディアン側の三者が
物語を進めます。
当然ジョン・ウェイン側が正義の味方で、正義を貫いて苦難を超える、という
期待通りの展開で、みていて安心映画です。
そんな西部劇的な良さ以外での注目は、
法の遵守と当時の司法の有様の描き方です。
日本では(あくまでイメージどしての表現ですが)大岡越前が裁いていた時代です。
とてもアメリカ・イギリス的を教えてくれます。
あくまで法を守る姿勢とそれを真摯に受けてその期待に応える。
これが積み重ねられることを想わせるシーンです。
西部劇では、裁判のシーンがさりげなくでも現れることがよくあります。
西部劇は、アメリカの精神が入ってることをよく感じます。
この映画も主役二人もみものですが、そんなシーンを楽しむ映画でもありました。
恋の情報網 1942米 レオ・マッケリー
戦時中のドイツを中心とした情勢をリアルタイムで写した映画です。
実写でヒトラーも登場します。
シリアスな内容ながら、ブラックユーモアを絡め、サスペンス色や恋愛模様もある、
盛りだくさんな内容でもあります。
戦時中のアメリカ映画だけに国策感は漂いますが、
それを補う上出来な作品です。
もちろんケーリー・グラントとジンジャー・ロジャースも良いですし、
時折真剣さが試される展開に渇を入れられます。
誤解を承知で書きますが、
この頃までのアメリカはとても偉大な国です。尊敬できます。
国策感を割り引いても、また、この映画以外の映画でもそれを感じます。
こういう感覚を想わせるということは、
映画は時を経っても真実を写す(偽りが収めらてれもそれ自体が真実です)
20世紀に誕生した人類の知恵のように思います。
志の輔らくご in Shizuoka
落語好きを自称していますが、
CD落語ファンなので、生は年に一度くらいです。
志の輔も生は初めて。
今一番チケットが手に入らない落語家の評判どおりの内容でした。
噺二つももちろんですが、(前座あり)三味線ありもOK。
この講演は静岡第一テレビ30周年行事の一環なのですが、
最後には、それを祝って志の輔みずから三本締めもありました。
偉いなぁ~と歓心しました。
なかなかできないことです。
もちろん落語も一級でした。
CD落語ファンが贔屓にしている、
故人の名人にひけを取らない数少ない現役落語家です。
情婦マノン 1948仏 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
二人はともに深く愛しているけれど、生き方、性格は違います。
独占したい男と、束縛なら別れる方を選ぶほど嫌な女、
嘘をつけない男と、金のためなら体も売るし人を騙すのもいとわない女。
普通では成立しないカップルですが、
同じ時間や同じ体験を重ねたから二人はこの道をたどったのでしょう。
それぞれ孤独でもあったのでしょう。
二人はどんな時も離れられないのだから、
どんな時も幸せだったことを、死別で確認できます。
うすうすの感覚が確信となりました。
こんな物語を描くことができる感性はすばらしいですが、
そこには計り知れない寂しさを想像します。
貴方なしでは 1939米 ジョン・クロムウェル
ひとめぼれで結婚した夫婦が夢見た結婚生活ができず、
経済的にも、嫁姑にも、そして子供まで悲劇に。
その状況の二人がどうなるのか。という映画です。
できそうでできない役の、ジェームズ・スチュワートは上手です。
相手役のキャロル・ロンバードもそれに応えています。
ストーリーは夢見る凡人を描きますから、
自分と重なります。みたくないけど、良くわかる。筋です。
子供の危機も結局自分たちの力では無力で、上司に泣きつき、
なんとか一命を取り留めました。(上司を動かしたのは、それだけの存在ですが)
作中随所に夫への叱咤激励が心に響きました。
男って、妻におだてられ、だまされで、やってしまうことって、
(私は)多いです。いつまでも子供なのは男かな。
ライオンも生活の主は雌達です。雄はここぞで役に立つか立たないか。
人の場合、生活の最低限を守ればなんとかついてきてくれるからありがたいです。
(少し古風かも)
この映画では夫が、自分が夫になったこと自体をあやまちだと宣言します。
それだけで、この夫が誠実なのがわかります。
そんな宣言をすることはナンセンスですが、その心があるかを知ることは重要です。
名刀美女丸 1945日 溝口健二
時代は江戸末期です。
刀師の不備から父親が切られ、娘が仇討ちをするのですが、
その原因とそれを成就するためには、名刀が必要です。
それを打って生ませる、刀師の苦悩がメインです。
元禄忠臣蔵の原寸主義とはいかないものの、
刀を打つ職人業をはじめ髄著に溝口監督の心が感じられます。
1945年封切りを加味すると、もう一歩踏み込んで認識をしてゆこうと思います。
ストーリーはありきたりですが、
観ていて引き込まれる感覚は、溝口映画(だけではないですが)でいつも感じます。
この作品で刀師の師匠が「誰のために(刀)を打つのだ」の言葉に主人公は、
「(刀を渡す大恩ある人のため)です」と答えると、
「それでは末代に仕える(刀)はできない」と主人公を諫めます。
この映画は数々の不足の中で造られたでしょう。
でも、魂が入っています。
ある歌い女(うたいめ)の思い出 1994チュニジア/仏 ムフィーダ・トゥラートリ
1950年代のチュニジア。
フランスから独立する頃を、主人公の回想でストーリーは進みます。
しかし、舞台は王宮内だけ、しかも視点は召使達です。
だから、独立の荒々しさは蚊帳の外で、その視点がそのまま観客の視点です。
閉ざされた王宮内で、変わる時代が来ているけど。
この映画を観る前に、チュニジアの知識を入れました。
ほとんど知らずに認識していた国です。
初等中等教育は、浅く広く教えてくれます。
テストの点数が取れればよし、ではなく、
そこから自分が何を深めてゆくかのきっかけ作りです。
そんな教育のシステムを今さらながら実感しました。
もしかしたら、私の世代が陥る落とし穴かもしれません。
話を戻します。
成長してゆく中で、経験もなく、知ることもなく過ごす悲劇を観ました。
悲惨な戦争とは違いますが、時代が生んだ出来事です。
人の歴史は、変わるのが常です、でも変われない環境におくことを選ぶ
選ばされることもあります。
王朝末期、ここでも弱いものが虐げられています。
この映画は、変革してゆくことは何もみせませんでした。
独立から落ち着いた時から、ただ独立前夜だけを写すのみです。
その流れの中で主人公も何をしてきたかは解りません。
ただ、題名が示すとおり「思い出」としました。
ここが人が持つ強さと希望です。
今主人公は悩みながらも、王宮にいた頃とは違う
自分で決めることができる人生にいます。
ここに素晴らしさと悲哀が同居していました。
黄色いリボン 1949米 ジョン・フォード
退役が決まっている騎兵隊の大尉ジョン・ウェインが過ごした、
退役までの数日を追ってストーリーが展開されます。
最後の任務は、悪条件も重なり至難なものになりました。
満足できない結末です。それでも退役は不動です。
そういう条件で、退役真近と、直後のジョン・ウェインを映します。
次の世代に継いで行く男、惜しまれています。当然感無量ですが、
そんなことより今まで何をして、何かを残せたか?
それをこの映画のジョン・ウェインから察します。
もちろん今までの活躍を称えてくれています。
だけど、本当に彼の精神は残っているのか、それを危惧しているようです。
でも、それはちょっとしたエゴです。でもこれが人情です。
だから、退役を受け入れます。ひとつやり残したことを除いて。
ジョン・ウェインは老いと言うほど老いていませんが、
人生を考えてみるとこの映画での彼の表現は、私のこれからと重なることが多いです。
今からこれまでの営みで、老いた後を変えることはできませんが、
今から今までを卑下しない生き方はできます。
亡き妻の墓前で語りかける姿がありました。
私もそれができるように生きたいです。
そこには、夫婦に共通するいつわりがない言葉を発する条件が整っています。
そこで何を話しかけることができるか。
それが生きたひとつの証だと。あのシーンは心に告げてくれました。
アパッチ砦 1948米 ジョン・フォード
表向きは騎兵隊対インディアンの話ですが、
内実は、騎兵隊内の上司(ヘンリーフォード)とその部下(ジョンウェイン)
とその部下たちや家族の話です。
騎兵隊という立場におけるジョンウェインの立ち居振る舞いが印象に残ります。
上司を上司としている姿は、武士道を感じさせます。
監督は、騎兵隊の在り方、在った姿を撮りたかったのでしょうか。
上司には、あってはならない行動が随所にみられます。
しかし、そこに悪代官のような感じはありません。
彼も彼なりに、国や市民や家族を大事にしています。
ジョンウェインの役のように、実力も人間性もある人物もいるでしょうけれど、
いつもその人が中心であることはありません。
実力者が力をだせないままを映画にしています。
しかし、実力者もそのことに腐りません、それで大局が悪くなってもです。
ちょっとすると、「何で、何で」の展開です。
感情がなく割り切った考え、計算づくではない。
結果よりも生き方を問題にしています。
上司としての能力のなさで、仲間を犠牲にしたことは
褒められることではありませんが、
職をまっとうする姿勢に敬意をはらう。
人間味を感じる映画でした。