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ブログ 今日のいもたつ

銀幕倶楽部の落ちこぼれ

ロイドの用心無用 1923米 ハロルド・ロイド

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二度目の鑑賞です。
この映画は、上映があることを知ると何が何でも駆けつけたくなります。

クライマックスに行くまでの笑いだけでも映画になりそうです。

クライマックスは、いても立ってもいられません。
そのハラハラの中で、笑いを一つずつ準備してあるのだから
たまりません。
造り手の気概を感じます。

話の流れも滞りなくテンポ良く、
ハロルド・ロイドが彼女の前で、どうしても良いところ、
心配させたくない気持ちから起こるドラマは
我をおもいます。
そして無茶してしまう。

原題の「Safety Last」も粋です。
それを跳ね除けるハロルド・ロイドの勇姿は最高です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年05月15日 07:23

父の初七日 2009台 ワン・ユーリン

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神道の葬儀に出席した時に仏教とは違うなと思ったことがあります。
仏教でも宗派の違いでの違いがあります。
それがお国が変わればですから、
かなり風習は違うものです。
それを可笑しくみせてくれる映画です。

けれど、故人と親族の近さ遠さで役割がそれぞれ決まるのは同じです。
そして、近ければ近いほど、葬儀の間は演じているのも同じです。

主人公は故人の娘です。
故人は53歳で亡くなっている設定ですから20歳代でしょう。
そして彼女はバリバリのビジネスウーマンです。
その彼女が田舎に帰り、古い風習の葬儀の当人として過ごす七日間です。
戸惑うギャップも可笑しいですし、
その戸惑いの中で亡き父と自分の忘れていた関係を思い起こします。
王道です。
だからコミカルで時々ほろっときます。

観ていて先が読めるのですが、
やはりラストに彼女が父を想うシーンが良かったです。
彼女の日常に父はいつもいません。存命中でも今でも。
でも葬儀が終わり数ヶ月が経ち、
ふとしたことから、想い出すことなどまずない場所で、
涙があふれ、とまりません。

これも王道ですが、感動しました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年05月04日 09:15

長い灰色の線 1954米 ジョン・フォード

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アメリカ陸軍士官学校「ウエストポイント」に
50年教官として勤めたマーティ・マー(主人公、タイロン・パワー)の
自伝映画です。

ウエストポイントは、
アイゼンハワー大統領はじめマッカーサー元帥等を送り出した
伝統ある名門士官学校のようです。
当時アメリカの誇りだったのでしょう。
(今もそうかもしれませんが)
製作がベトナム戦争前なので、
本当に良き士官学校として描かれているようにみえました。

このあたりは、郷愁がある者とない者で感じ方はかなり違うでしょう。

映画は、50年にわたる教官と家族、そして生徒たちとの交流です。
タイロンパワーは主人公の、長い人生を上手く演じています。

生徒が戦死して、その息子をまた教えるということの悲哀。
でもそれは、祖国のため。
このあたりの心の葛藤もいやらしくなく描かれます。
映画全体にユーモアある演出もあり、
ジョン・フォード監督の手腕がさえます。

もう一つの見どころは、
士官学校の生徒たちの演奏と行進が要所で出てくるシーンです。
映像も綺麗だし、使いどころも良いと思いました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年05月02日 07:32

アーティスト 2011仏 ミシェル・アザナヴィシウス

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できるだけ字幕も廃しています。
映像で全部を伝えることを決め、
必要最小限のフォローで、音と字幕、
要所でサイレントを開放します。

主人公二人はそれを受けての演技です。

ちょっと残念なのは、
その制約に縛られすぎるように感じられてしまったことです。

けれど一貫した作風があり、
爽やかな映画に仕上がっています。

フランス映画ということが味噌で、
サイレントからトーキーに変わるという
映画の歴史の一大事のハリウッド映画を、
ベタベタさせないで、
ちょっと遠目でみて、
尊重しています。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月20日 07:24

うさぎドロップ 2011日 SABU

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ついていくのが大変でした。
どうしても考えてしまうからです。
主人公はどこに住んでいて、どこに通勤しているのだろう。
そして保育園はどこ?実家はどこ?

なぜか失踪した子供をみんなで捜します。なぜ?
保育園に先生は失踪事件で誰も現れません。

不審なキャラクターも多く登場します。
冒頭の葬式で主人公をみて驚く人々。
子供を強引に引き取りたい謎の女。
失踪事件で怪しい人物。

腑に落ちないことが多いけれど、
この映画の主題は違います。
子育て応援歌で、
高齢社会の子供への愛の賛歌です。

それを思えば、
ちょっと不自然な設定は無視できます。
それよりも子供達にはこれから困難を超えていってほしいと、
特に学芸会のシーンでは泣けてしまいます。

それを思うことは、
今現在の日本を憂う気持ちそのものですね。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月17日 06:12

さすらいの女神たち 2010仏 マチュー・アマルリック

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けっして優雅ではない、悪く言えばおばさん達がコミカルに、
ストリップまがいのショーの旅芸人一座の、
ロードムービーのような映画です。

のようなと言ったのは、
そこに一座内にイザコザがあったり、
一座が困難を乗り越えるということが起こらないからです。
もちろんイザコザはあります。
それ以前に、この一座の設定が面白いです。

まずは、煌びやかではない。
そしてアメリカの一座がフランスでドサマワリです。
しかも座長はフランスを追放されたプロデューサーです。

普通に進むことも、ましてやハッピーエンドになることはないことが、
冒頭から察します。

そしてイカレタ座長(をはじめ旅芸人達)をみていると、
アウトローの悲劇の物語ではないかと思い始めます。

しかしどこまでも明るい(おばさんのような)ダンサー達、
能天気ですが、ステージに上がればプロそのものです。
そんな彼女らを擁しても座長は屈辱を覆せませんでした。

彼は失意に終わりますが、
彼の最後には彼女らがいた!
潔くそこで気味良く終わるのはこの映画は全般を通して、
敗者に対して、敗者ではないコールを送っているからです。

だから勇気付けられます。

劇中のショーはこの映画の見どころです。
芸術性があるかはわかりません。けれど
世の中が複雑になっていることを充分に感じます。

そしてそれに応えているのが彼女達なのでしょう。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月15日 09:07

ミラル 2010仏/イスラエル/伊/印 ジュリアン・シュナーベル

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イスラエル建国から50年程を、
ひとりの女性ジャーナリストの半生とともに映像としています。

ニュースで知るイスラエル問題は、
遠い日本ではニュアンスはわからないことを、知識で自覚しています。
その前提でみるのは当然ですが、
あまりにも遠いことを感じます。

物語は主人公が17歳の少女の頃が中心です。
彼女はパレスチナ人です。
イスラエルでの争いに彼女も怒りがあります。
その解決策は、
武力、交渉、譲歩、
映画の中でもその手探りの、そして、
多くの考えがあり、難しさを露出させます。

彼女もどれが良いのかがわかりません。
彼女なりに必死に理不尽に立ち向かいます。


世に起きている紛争は何故起きているのか?
語りつくされている議論です。
人が自由を、それが人らしいから得るための結果なのか。

でも悲劇は起こっています。
この映画は紛争の中で己の人生を全うする人が描かれます。
だから希望の映画です。


でもあまりにも日本とは遠いことがやっぱり離れません。
恵まれていることを感じます。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月13日 07:22

雨月物語 1953日 溝口健二

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2度目の鑑賞です。
1度目以上に音楽とカメラの良さを感じます。
特にカメラと構図です。見事です。

1度目と同じく田中絹代に惹きつけられます。
1度目以上に、京マチコの表情に、
この女優の映画に合わせた役そのものの姿に感心します。

愚かな男二人が改心するという単純な話なのですが、
男が持った分不相応の野望に、
想像すら出来ないほどの代償が必要だったことが、
今回は痛く刺さりました。

この映画は現実ではない設定で、
それをあらゆる手段でリアルに描いています。
単純で当たり前の教訓であるがゆえに、
それが遠まわしに、けれど鋭く突かれる感じです。

神話ができていく行程のように思えてなりませんでした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月06日 07:42

SOMEWHERE 2010米 ソフィア・コッポラ

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自分を知る物語です。
自分には何もないことで復活をきすこと決める物語です。
仏教の感覚も随所で感じました。

映画の構成は、
絵で設定をこちらに委ねてきます。
物語を叙情的にする効果的な音楽が台詞の代わりに響きます。


ハリウッドスターが、
庶民からすればやっかみだらけの、
贅沢な生活の中で、
ふとしたことで、
11歳の娘といつもより長く過ごすことになります。
(離婚中でいつもは別々)

その結果は、、、
自分の今は、空虚なまやかしとしか受け止められなくなり、
自分の今を知ります。
空っぽな自分がいました。

人の強さは知ったことを受け止める力です。


贅沢な数々のシーンがありますが、
一つ一つとても考え抜かれた設定とカメラワークを感じます。
ニュアンスは全然違いますが、
小津映画につながる繊細さがあります。

繰り返しますが、
贅沢さは庶民の私としては異次元ですが、
シーンのつながりをシミジミと後からも
印象として、思い出したくなる映画です。


追伸
昨日は「清明」でした。二十四節気更新しました。
ご興味がある方は、干し芋のタツマのトップページからどうぞ。
干し芋のタツマ
二十四節気「清明」の直接ページはこちら
清明

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月05日 06:06

悲しみのミルク 2008秘露 クラウディア・リョサ

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母乳を通して母が抱えた恐怖が、
子に伝わる恐乳病に冒された娘の物語です。

母の悲劇を受け継いでしまい、
娘は息をしているだけの生活です。
無表情、感情の起伏もない、
絶望に支配されているようです。

ペルーの映画です。
ジャガイモがキーに冒されたなっています。
新大陸の発見からたどったペルー(ラテンアメリカ)を、
娘の生き方で肩代わりさせているようにも思いました。

葬ることが出来ない母の遺体。
満足に話もしない娘。
他人を信用出来ない性。

暗喩を感じました。
ただ、ラストは、
真っ暗なシーンから、
娘の笑顔と、ジャガイモの花です。

救われる映像でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2012年04月04日 07:33