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ブログ 今日のいもたつ

銀幕倶楽部の落ちこぼれ

人情紙風船 1937日 山中貞雄

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長屋仲間の首吊りの通夜までも(大家にたかり)
宴会にしてしまう、
なかば世の中に流されながら、そして逆らいながらも、
生きることを続ける長屋の連中。

金持ちになり、欲や地位や権力を追う商人と侍。
それに寄生するヤクザ連中。

長屋に居て、どうしても仲間のように生きられない、
粋に生きたい主人公と、浪人侍は、
時に同じ気持ちになり、時にそれぞれが理解できません。
けれど、生き抜くことができないことは同じでした。

粋なままでいたい男、
本物の侍でいたい男と侍でいさせたい妻が、
死を選び終わります。
映画が終わった後は、また、ドンチャン騒ぎの長屋になります。

人間らしい描写が封じ込まれた作品です。

長屋、商人、セットも見事なら、
雨の撮影や光と影の美しさ、そしてカメラの構図も鮮やかです。
演技人も、江戸から抜け出てきたかのような素晴らしさです。
落語の名人の噺とも重なりました。

テンポ、リズム、人間の悲哀や欲望、そして優しさと虚しさ、絶望が、
詰め込まれた。評判どおり、期待以上の作品でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年10月11日 07:21

フレデリック・パック4作品

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短編映画4作品を鑑賞しました。
「木を植えた男」
物語の中の木を植える主人公の姿が、
そのままこの映画を造るフレデリック・パックにつながります。

彼が、丁寧に手間をかけたことが、
この物語に魂が込められました。
そして、今の日本に希望を与えてくれる作品です。

上映もタイムリーだし、観てよかったです。


「大いなる河の流れ」
とても美しい作品でした。
セント・ローレンス河が舞台ですが、
文字通り流れるような映像です。

生態系の破壊、汚染がテーマです。

4作品すべてアニメのタッチが違うのにも驚いたのですが、
この映画がその中で一番新しいということで、
それも伺ええました。
繊細なタッチとアニメではなく、
カメラが動いて行く感じでした。


「クラック!」
一脚のロッキングチェアが主役です。
木から生まれ、作り手の家でボロボロになるまで尽し、
捨てられます。
けれど、新しい舞台が待っていました。

ハッピーエンドなのですが、
それを素直に喜べます。

ロッキングチェアを巡り、
家族が成長する様、
社会が変わる様、
人の営みの時間経過を語り、
そして、ファンタジーへと誘います。

可愛らしい作品でした。


「トゥ・リアン」
地球上で生命が誕生してから、
現代までの進化の映画です。

フレデリック・パックの映画は
どれも強いメッセージが込められていますが、
この作品が一番だと思いました。

人の蒙昧さ=己の愚かさを感じました。


追伸
昨日は「処暑」でした。干し芋産地も残暑ながら秋の気配があります。
二十四節季更新しました。
ご興味がある方は、干し芋のタツマのトップページからどうぞ。
干し芋のタツマ

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年08月24日 08:06

ロゼッタ 1999白/仏 リュック・ダルデンヌ

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何があっても、誰が何を言おうとも、
この一線だけは引かない。それをすれば全てが壊れるから。

主人公の少女ロゼッタは、貧しく閉塞感の中で自分の力だけで
生きています。
母と友人は一線を超えて生活しているのが許せません。
身近にいるから反面教師で、ロゼッタは頑なな生き方ができます。

不安定なカメラはロゼッタと一緒に日常をただ映すだけ。
彼女の生活を見せられるだけ。
大上段に、社会が、国が、教育が、などと言う事はない。
ただ、ごく普通の生活を勝ち取るために必死な少女が、
日々どうしているかを見せるだけです。

自分にも心の中に燃えている炎があることを、
ロゼッタがお腹が痛くなるのと同じあたりにあることを、
見ていて熱くなりました。

ラストはロゼッタが涙します。
今まで決して人前では見せない涙をみせます。
ロゼッタが幸せななるか不幸になるかはわかりませんが、
分岐点が来たから映画は終わりました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年04月30日 07:10

炎上 1958日 市川昆

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ラストの炎上が見事です。
ここに主人公の心が現れています。
そこまで淡々としたシーンばかりでしたから際立ちます。

吃音の主人公は市川雷蔵、彼を代弁するのが、仲代達也。
二人の表現がこの映画の主旨であり、
原作の匂いなのでしょう。
世の中の矛盾に対しての嫌悪感。
だれもが鬱陶しいと思いながら流されて行くことへの、
怒りを感じます。

三島由紀夫が生きていた時代、
まだ近い過去です。
彼はヒーローでもありました。
その時代は近いのに今とは全く違うことに何故かと、
考えが空回りする鑑賞後でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年02月14日 06:13

あの日、欲望の大地で 2008米 ギジェルモ・アリアガ

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自分を許せないまま生き抜く日々。
複雑なヒロインの心情を、
物語としてつながらないカットが表現します。
そしてそれがつながると・・・。

生きていてはいけない自分の原因は母、でも、
自分が罪を犯した。そのうえ、愛してはいけない男も愛してしまった。
母を恨み、けれど許しを得たかった。

映画の造り方も上手いのですが、
罪とその動機。偶然。
平均台のようなすぐに落ちそうな上を誰もが渡っているのが、
生きることだということを強く感じます。

ラストが予定調和的なところをどうとらえるかですが、
ラストに至るまでに、
問題は全てこちらに預けられています。
私の中にもある、自分を許せないことを、
この映画は説いて許しを得る勇気を与えてくれています。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年02月06日 07:51

タロットカード殺人事件 2005英 ウディ・アレン

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ウディ・アレンとスカーレット・ヨハンソンの役柄が全てを決めています。
そしてそれが成功です。
二人の会話の映画です。

どちらも映画の主旨どおりの役なのですが、
スカーレット・ヨハンソンを野暮ったくしたのが、素晴らしい。
そして上手く演じる彼女はさすがでした。

ウディ・アレンコメディが好きならお見逃しなくの映画です。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年02月05日 07:43

ノーウェアボーイ 2009英 サム・テイラー=ウッド

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彼の影響は世界中で計り知れません。
その生い立ちの映画です。

今となっては彼の真意はわかりません。
身近な語り部から知るか、この映画のようにこちらから
アプローチするしかありません。
ただひとつ、私にとって彼はどういう存在かを確認したい、
そのひとつとしてこの映画は役立つし、
感動もしました。

音楽ファンにはたまらないシーンも数多く、
ジョン・レノン、ビートルズファンでなくとも
注目の映画であることには違いありません。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2011年01月19日 08:33

ストレンジャー・ザン・パラダイス 1984米/西独 ジム・ジャームッシュ

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1984年にハンガリーからアメリカに来た、ヒロイン、
アメリカにいた従兄と叔母さん、3人の考えや行動が冷戦末期を現します。

それらの主題をおいておいて、とても洒落た映画です。

ヒロインのキャラクターが魅力です。
それに呼応するようなカメラと物語、
淡々とほんの少しのドラマがあるだけ。

作中、「晩春」と「東京物語」と「出来ごころ」が台詞に出ます。
確かに小津映画を受け継いでいる雰囲気があります。

たくさんの人に「とても良い映画だからみなよ」と
勧めることはないという良い映画です。
好きと嫌いに分かれるでしょう。
私は、かなり気に入りました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2010年12月13日 07:23

ココ・アヴァン・シャネル 2009仏 アンヌ・フォンテーヌ

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画期的、革命的に世にデビューしたことがわかります。
フランスにおいて1900年初頭に、貴族がこのままではいられなくなることを、
ココは体中で実感していたとしか思えません。

誰かがやる仕事をココが切り開いたのでしょう。

映画はそれとはちょっと違い、
ココがシャネルを立ち上げるところまでを映します。

主役のオドレイ・トトウが魅力的です。
それはこの映画がシャネルの映画の魅力を伝えることと、
彼女のファッションが見合っているからです。
シャネルのファッション自治を知っているわけではないですが、
革命的なココの実践と、反貴族的な衣装で、
それらを感じとることができました。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2010年12月12日 06:01

浮草物語 1934日 小津安二郎

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先が読める話ですが、小津監督は重々承知だったと受け止めます。
半世紀以上の日本の状況のことはわかりませんが。

先はわかっていても重厚な映画です。
やっぱり凄いですね。
話が進むほどにそれがまして行く演出です。

俳優陣の演技のきめ細かさも、
日本のサイレント映画ならではという感じです。
サイレントだとオーバーアクションになりがちですが、
自然にけれど目配せなどでさりげなく、
ストーリーをつなぎます。
これも小津監督だからでしょうか?

「父ありき」と同じ父子の釣りシーンが使われています。
このシーンは殺し文句のようなシーンです。

これも観ておいてよかった映画でした。

【銀幕倶楽部の落ちこぼれ】

日時:2010年12月11日 07:48